事務局日誌: キリマンジャロ山の名前の由来

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キリマンジャロ山の名前の由来については、よくスワヒリ語で「白い山」だと説明されている。これはKilimanjaroの”Kilima”が、スワヒリ語の”Mlima”(=山)に由来しているのではないか、との推測から来ている(”Kilima”になると「小さな山」、「丘」の意味になる)。しかし残りの”njaro”に、スワヒリ語で「白い」という意味があるのかと言えば、これがまったく無い。またあの巨大な山塊を、なぜ「小さな」と表現するのか、その理由についても不明のままである。

じつはキリマンジャロ山の名前の由来には諸説あって、実際のところどれが本当なのかまだ定かでない。というより、そもそもその諸説の中に、正しい答があるのかさえ分かっていないというのが実態のようである。

さて、ではそんな諸説には、一体どんなものがあるのだろうか?

 

1.スワヒリ語説

その1)「白い山」説。(ただし上記したように、この説は「白い」≠”njaro”の説明がつかない)。

その2)”Njaro”は山に住む悪霊の名前だとする説。スワヒリ語で”Kilima cha Njaro”とすると、「ンジャロの小さな山」の意味になる(タンザニア沿岸部の一部住民の間では、「ンジャロ」は寒さをもたらす悪霊のことをいうらしい。)しかしキリマンジャロ山麓に住むチャガ民族に「ンジャロ」なる霊/悪霊はおらず、なぜ「ンジャロの小さな山」なのかいまひとつ説得力に欠ける。

 

2.チャガ語説

キリマンジャロ山麓に住むチャガ民族の話すチャガ語で、「(希望などを)くじく、挫折させるもの」を”Kilema”といい、「困難、不可能となったもの」を”Kilelema”という。また同様に「鳥」(「ヒョウ」との説もあり)のことを”Njaare”、あるいは「隊商(キャラバン)」のことを”Jyaro”と言うことから(キリマンジャロ山はキャラバンルート上の目印、あるいは麓が休息の場所となっていた)、Kilimanjaroは「鳥(ヒョウ)をくじくもの」、「隊商を挫折させるもの」という意味のチャガ語から来ているとする説。

ただしチャガ民族自身は、キリマンジャロ山に対する固有の名称をもともと持っておらず、「山に登るのは無理だ」という意味で説明された初期の探検家が、それを山に対する名称だと思いこんだのだろうという、かなりややこしい理屈の説である。

 

3.マサイ語説

マサイ語で「泉」や「水」のことを”Njoro”と言い、これがキリマンジャロ山に湧く泉や、流れ出る水を指しているとする説。すなわち”Kilima njoro”で「水の(流れ出る)小さな山」を意味するとする説。しかしマサイ語には”Kilima”という言葉はなく、スワヒリ語と混合させることの説明がつかない。

 

4.カンバ語説

ケニアに住むカンバ民族の言葉で、キリマンジャロ山のことを”Kiima kyeu”あるいは”Kima jajeu”と称した。カンバ語で”Kiima”には、「山」と「丘」双方の意味があり、この説では「小さな」という不可解な意味付けをする必要がない。また同様にカンバ語で「白」を意味する名詞語幹は”-eu”である。つまりカンバ語で”Kiima kyeu”あるいは”Kima jajeu”は、「白き山」の意味になる。さらに現在のチャガ民族のルーツ(一部)は、このケニアから移住してきたカンバ民族であることが知られている。従ってこの説にはそれなりの説得力がある。

 

5.その他

昔、ケニアのモンバサまで往き来していた船乗りたちが、海上で自分たちの位置を特定するために目印にしていたのがキリマンジャロ山だったとの説。雪のことを知らなかった彼らは、山頂の白さに海岸の砂丘をイメージしていた。それが転じて「白い小さな山」の意味になった。モンバサからだと遠望するキリマンジャロ山は十分に小さく見え、「小さな山」としたことの説明はつく。しかし証拠となる海図などは残っておらず、疑問が残る。

他にもまだ説はあるのだが、キリがないのでやめておくことにする。キリマンジャロなる山は、ことほど左様にその名だけでも人類の探求心をかき立て、様々に思いを馳せさせてくれるロマンチックな山であるらしい。しかし雪がなくなれば、その説明はますますややこしいものとなることだけは間違いなさそうである。

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