1. 環境保全
植林
タンザニアでは増え続ける人口とそれにともなう薪炭材需要の増大、農地確保のための開墾、放牧地とするための火入れ、貧困にともなう違法な木材の切り出しなどによって毎年約40万haの森林が失われています。
当会の活動地であるキリマンジャロ山(世界自然遺産)でもこの100年に約3割の森林が失われ、これと歩調をあわせるように降雨も3割が失われました。そして現在もその減少傾向に歯止めがかかっていません。
森を失った尾根は広大な裸地となり、そうした場所では人々は遠く離れた原生林まで行かなければ生活の維持に必要なニーズを満たせなくなっています。
こうしたキリマンジャロ山で進む環境の荒廃を防ぎ、人々の生活を守っていくためには、これ以上の森林破壊を食い止め、さらには増やしていくための「仕組み」、「体制」、「行動」が必要とされています。そしてそのためには、山麓住民との連携・協力がもっとも重要であると当会は考えています。なぜならキリマンジャロ山の森林保護の歴史は、山に暮らす村人たちこそ最大の森林の保護者であり続けたことを示しているからです。そして森が生活体系の一部である彼らは、それゆえ森林減少の影響をもっとも受け、森林減少への危機感をもっとも抱いているからです。
そこで当会はキリマンジャロ山を活動拠点とするローカルNGOおよび山麓住民と協力して、山麓を広範にカバーすることのできる「息の長い」、「持続的な」森林保全活動の確立を目指した活動に取り組んでいます。また設立以来20年以上にわたって、彼らとともにキリマンジャロ山の裸地化した尾根で森林回復のための植林に取り組んでいます。山麓で協力している村は40村、これまでに植えた苗木は約50万本になります。活動初期に植えた苗木はすでに樹高15mを超え、かつての裸地に涼しげな木陰を落としています。
キリマンジャロ山の森林はなぜ減少したのか?
世界遺産でもあるキリマンジャロ山では過去100年間に約3割の森林が失われました。2002年の国連開発計画(UNDP)によるキリマンジャロ山の森林に対する脅威調査報告書 “Aerial survey of the threats to Mt.Kilimanjaro forest”は、キリマンジャロ山で起きている森林破壊として違法伐採、森林火災、炭焼き、農林混合耕作、採石、放牧、森林村、開墾、土砂崩れを指摘しています。
もちろん人為による森林破壊行為は厳しく取り締まられなければなりません。しかしその一方で、それらを取り締まるだけではキリマンジャロ山の森林減少を食い止めることはできないと当会は考えています。そして同様に「自然」と「人」が共存できる持続的な森林管理を実現することはできないと考えています。なぜならそうした人為による森林破壊行為には、それらを招くこととなった根源的な要因が他にあるからです。
キリマンジャロ山ではタンザニアの独立(1963年)以来、何度も森林の管理主体が入れ替わり、相互に整合性、一貫性のない森林政策が適用されてきました。またそれら森林管理主体の森林管理に対する知識・資金・人材の不足、地域社会に対する理解不足・住民不在が重なってきました。こうしたことがキリマンジャロ山の森林管理を大きな混乱へと導き、相互に矛盾する政策はキリマンジャロ山を実質的に森林管理不在の山としてしまいました。
何が問題であったのかを顧みることなく、ただ取り締まりを強化してもそれは対症療法でしかなく、問題の根源的な解決には結びつきません。
キリマンジャロ山の森林をもっとも破壊したのは、山麓の広大なエリアを切り開いて運営された森林プランテーションです。そしてその森林プランテーションをもたらしたのは、森林の商業経営に重点を置いた森林政策でした。いま山に広がる広大な裸地は、ほぼ森林プランテーションの跡地に重ねることができます。そしてそうした場所で、半世紀以上にわたって失われた森林を回復しようと植林に取り組んできたのは、森がなければ生きていけない山に暮らしている住民たちでした。
キリマンジャロ山の森を守るためには、森林破壊を招いた根本要因が何であったかを正しく認識し、森林の保全・保護に果たしうる地域住民の高い管理能力、行動力を評価し見直していくことが求められます。そして住民主導による一貫した森林保全・管理の仕組み、制度を確立し、それを担保する政策を導入していく必要があります。
タンザニア・ポレポレクラブはその仕組み、制度の確立をキリマンジャロ山の住民とともに目指しています。
地域主導による森林保全・管理枠組構築(人と自然の共存を-キリマンジャロ国立公園の拡大問題と当会の取り組み)
キリマンジャロ山では2005年、自然(森)と人を分離するため、山麓住民が利用してきた生活の森(※)が国立公園に取り込まれました。この措置は、キリマンジャロ山に長く暮らしてきた山麓住民の生活を破壊しただけでなく、彼らの生命をも脅かしています。さらに自然と人の分離による「要塞型自然保全」は、過去のキリマンジャロ山の森林管理政策がたどってきた負の結果(森林減少)をまったく顧みない、非合理的で不公正なものとなっています。
当会は国立公園拡大がキリマンジャロ山の自然と人々にもたらしている問題の解決に向けて、森林に沿う40村と協力し、バッファゾーンの森を地域住民のイニシャティブで守っていくための新たな森林保全・管理の制度、枠組みの構築に取り組んでいます。
原生林と村落エリアの間にあったバッファゾーン(緩衝帯)の森。“Half-mile forest strip”と呼ばれ、日本の里山の森にあたる。
世界遺産キリマンジャロの森に何が起こっているのか?
国立公園拡大問題の詳細については、以下のリンクをご確認ください。
2. 生活改善・向上
環境を守る活動と人々の生活は、車の両輪ともいえる密接不可分の関係にあります。植えた木が育ち成果が現れるまでに早くても10年。そんな息の長い活動に村人たちが持続的に取り組んでいくためには、それに取り組む彼ら自身の生活余力を少しでも生み出していく必要があります。そこで当会は、養蜂、養鶏、改良カマドの普及など、村人たちの生活基盤の安定や強化、生活改善に向けた活動に同時に取り組んでいます。
養蜂
キリマンジャロ山には多くのミツバチが棲息しており、養蜂は高いポテンシャルを持っています。また植林している木の中には、育つと良い蜜を出す“蜜源樹”が含まれています。タンザニアではハチミツは薬としても用いられる貴重品で価格も高く、植林によって森が豊かになればなるほど、養蜂は村人たちに良い収入をもたらしてくれるようになります。また現地では、材として売るための伐採が森林減少の大きな要因となっていますが、養蜂は木を切って収入を得るのではなく、木を植えることで収入に結びつけることのできる一石二鳥の取り組みといえます。
改良カマド
タンザニアでは薪集めは女性や子どもたちの仕事です。遠い距離、重い薪を運んでくるのは重労働なだけでなく、熱効率の悪い現地のカマドのために、女性は多くの時間を調理に費やさなければなりません。改良カマドは薪の消費量を6割以上減らすことができ、薪集めの重労働を大幅に軽減できるほか、調理時間も半分程度まで短縮することができます。そして改良カマドの普及は同時に「木を減らさない」取り組みでもあるのです。
3. 自立支援
キリマンジャロ山ではこれまで村人たちの生計を支えてきたコーヒー産業が斜陽となり、多くの青年が町や都会に職を求め、村を去っています。しかし村を去ることが難しい少女たちには、先の見通しを立てられない厳しい現実が待っています。その一方で、多くの女性たちがグループ活動などを通して、キリマンジャロ山のみならず、タンザニアの環境保全に大切な役割を果たしています。そこで当会は、少女たちが村に生活基盤を置きながら不安なく暮らしていけるよう、彼女たちの自活を支援しています。
裁縫教室
タンザニアの村々で、家庭の事情など様々な理由で中学校への進学の道を閉ざされてしまった少女たち。当会はそんな少女たちが手に技術をつけ自活していけるよう、裁縫教室の運営を支援しています。卒業生はその後技術学校の教師になったり、小商いを始めたり、それぞれにたくましく人生を切り開いていっています。
4. その他
当会はキリマンジャロ山で地域住民の生活改善、向上に取り組むとともに、村の社会基盤整備(診療所建設、伝統水路復旧など)にも同時に取り組んでいます。また域内交流や研修による能力開発(Capacity building)を通して、地域住民が課題解決能力を高め、取り組みの持続性を確保していけるようにしています。
プロジェクト視察・農村滞在・ホームステイ受入
当会の活動や国際協力に対する理解を深めていただく機会として、キリマンジャロ山の活動現場を訪れる「プロジェクト視察」を受け入れています。
また、アフリカに生きる人々の飾らない日常に触れ、お互いの素顔を通した理解と交流の機会とするため、キリマンジャロ山の村での「農村滞在/ホームステイプログラム」を実施しています。