TEACAの裁縫教室が立ち上がり、9カ月が経過した。ここではこの3月に実施した調査結果を受け、裁縫教室の現状と課題、今後の展望についてご報告する。
●現 状
【開校後から現在までの状況】
まず生徒数であるが、この裁縫教室は村での評判も高く、生徒数も開校当初の11名(少女、主婦合わせ)から現在20名(同)まで増えている。この高評価の背景には教師の質の高さがあると思われ、他の裁縫教室からわざわざ移ってくる生徒がいることからも、そのことが推察できる。良い教師に恵まれたことは、この教室の大きなアドバンテージとなっている。
一方、教室に装備されている機材は、足踏式ミシン10台、編み機2台、電動ロックミシン2台で立上げ当初と変わっていないが、事務所の電化工事が遅れており、電動ロックミシンの使用には目処が立っていない。電化工事の遅延は現地電力会社の怠慢と無計画によるものであるが、いつ電化が完了するのか、その見通しさえ立っていない。この点は、カリキュラムへの影響は避けられそうもない。
教室では各生徒が使うミシンをきちんと決めており、ミシンには各自の名前を書いた名札が下がっている。これはミシンが自己所有物でないことから、荒っぽく使いミシンを壊してしまうのを避けるための工夫である。機材を少しでも長持ちさせようとの細かい配慮が見て取れた。
【コース設定/クラス分け】
本来この教室は、入学から卒業まで2年間のコースとして設定されている。授業開始は小学校の卒業(12月)に合わせて1月からの開始を基本としているが、昨年は教室自体が7月から立ち上がったため、12月末までの半年間に一年分の授業内容を圧縮して実施した。
また授業は午前の部(8:30~13:30=4時間)と午後の部(14:00~16:30=2.5時間)の2部制を採用しており、これまでは少女対象クラスと主婦対象クラスの2クラスを、1週間毎に午前と午後をローテーションする形で実施してきた。
【カリキュラムと技術進度】
2年間のコースでのカリキュラムは、1年目に手縫い、そして足踏式ミシンを使って、決まったパターンによる衣服を作れるようになることを目標としている。2年目にはパターンのバラエティとデザインの多様化、より高度な縫製技術の習得を目指している。また2年目には、編み機による編み物の技術修得も目指している。残念ながらロックミシンによる仕上技術の修得は、冒頭に触れた事務所の電化遅延の問題から、現状では対応できない。
今回の調査においては、昨年入学した第1期生はすでに女性用のブラウス、スカート、男性用のシャツ、ズボン、子供服などを一通り作れるレベルに達していた(決まった型を使用)。教室が始まった当初は、ミシンを使っている姿を写真に撮ろうとすると、みんなとても恥ずかしがっていたが、今では「これが私の作った服よ、写真に撮って!私の顔もちゃんと写すのよ!」といって誇らしげに服を広げて見せてくれる。ミシンを使う姿なども実に堂々としており、各自が実力と自信を付けてきている様子を伺い知ることができた。
【生徒はなぜ裁縫教室に通うのか、その目的】
この裁縫教室は、少女対象クラスと主婦対象クラスの2クラスに分けて運営されている。そして裁縫教室に通う目的も、少女と主婦とではそれぞれの置かれた立場の違いから、大きく異なっている。
1.自活の道を切り開くために通う少女
様々な理由により進学の道を閉ざされ、小学校しか卒業していない少女たちにとって、自らの将来をどうするかは深刻な問題である。村を離れて職を得る道は男子より厳しく、かといって家に残り、両親の農作業や家事を手伝って日々を送るしかない彼女たちにとって、村も家も非常に居づらい、肩身の狭い場所となっている。それは自分自身へのやりきれなさへも繋がっている。
そんな彼女たちにとって、自らが自活する術を得ることは何にも増して重要でなことであり、切望していることである。縫製技術を学び、手に職を付けることで、将来マーケットや町で小商いをして自活していくこと、それが彼女たちが裁縫教室に通う最大の目的であり、目標である。
2.ドメスティックユースに重きを置く主婦
一方主婦にとっては、家を留守にして商売を始めることには必然的に制約がある。また、苦しいながらも家庭という生活基盤を持つ主婦にとって、裁縫教室に通う目的は自活というより、自分たちの生活の質的、経済的向上に重きが置かれている。
縫製技術を身につけることで、夫や子供のための服を自ら作れるようになり(=支出の削減)、さらにこれまで外部に賃払いで頼んでいた、ほころびなどの修正も自分で出来るようになる(同)。また、村で縫製技術を持つ主婦はほとんどいないことから、村での衣服の需要(オーダーメード)を対象とした小商いが可能となる(=収入向上)。
このように家庭内のニーズを満たし、支出を抑え、小規模な収入機会を得ていくことで、少しでも生活を安定させ、向上させていこうというのが、主婦が裁縫教室に通う目的となっている。
【その他-植林活動への参加】
裁縫教室はTEACAの監督の元に運営されている。TEACAは教室の立ち上げ当初より、環境保護活動(育苗作業のサポート/植林活動)への参加もこの教室の活動の一環との位置づけで指導してきた。これまでの実践活動として、育苗ポットへの土詰め作業、ワークキャンプ時の植林活動への参加があり、既に具体的行動に移されている。
但しこうした場合、TEACAが裁縫教室を、TEACAの諸活動のマンパワーの一部として考えているようでは問題がある。TEACAの事務所に教室があるというロケーションメリットも活かして、教室に通う中で、生活に役立つ様々な知識や技術とともに、環境保護(活動)の意義や実践についても自然と学べるという位置づけを、TEACA自身がしっかり認識して臨んでいくことが望ましいと思われる。
●課 題
これまでの経過を通して、裁縫教室の解決すべき課題、問題点も浮かび上がってきている。それらは主に教室側の課題と生徒側の課題に分類して考えることが出来る。
【教室側の課題】
1.教室のキャパシティー
今年1月から、第2期生に当たる新入生(少女クラス、8名)が入ってきている。冒頭に述べたようにこの第2期生を合わせ、現在裁縫教室の生徒数は合計で20名となっている。
これに対して現在裁縫教室として使っているTEACA事務所の部屋は、ミシンを入れると収容力10名がギリギリの限界である。教室そのものは午前/午後の2部制を敷いていることから、実際はこの20名全員が一緒に学ぶことはないが、人数が丁度半分半分ということではないため、部屋の外にまでミシンを持ち出して勉強しているというのが現状である(部屋の外ではあるが、事務所の敷地内)。
今後さらに生徒数が増えた場合、教室のキャパシティーは問題になってくると思われる(当面は部屋の外も使うことで、何とか凌げる)。
2.クラス編成/授業のやりくり
教室のキャパシティーの問題と相まって、生徒数の増加に対してクラス編成及び授業のやりくりをどうするかも問題となってきている。この問題は、クラスを少女対象クラスと主婦対象クラスの2クラス設けている、TEACA裁縫教室の特殊性にも起因している(通常の裁縫教室は、少女対象のみであるのが一般的)。
これまではこの2クラスを、午前/午後のローテーションで回していたが、第2期生が入ってきたことにより、第1期生は少女/主婦の別を廃し、混成クラスに組み直した上で、今度は第1期生(混成クラス)と第2期生(少女クラス)を午前/午後のローテーションで切り盛りしている。
後でも述べるが、少女と主婦とでは授業への出席可能日数が異なり、必然的に技術進度に差異が生じている。従って混成クラスで同じ内容の授業を行うことには無理があるといわざるを得ない。
さらにこうした事情から、第2期生に関しては主婦クラスの募集が出来ずにいる。TEACAは4月から募集をかけると言っているが、このような状態で果たして教室の運営が上手くいくのか、また裁縫教室の高評価に繋がっている質的、技術的なレベルの高さを維持できるのかは懸念されるところである。この問題を解決するためには、
(1) 少女/主婦対象という”クラスの持ち方”に対する考えを根本的に見直す
(2) 無理矢理混成クラスにねじ込む
(3) 1週間の授業日数を調整し、カリキュラムを再編する
(4) 教室・教師ともに増室・増員を図る
のいずれかが考えられるが、少なくとも現状は”(2)”の方向で進められている。
3.機材不足/消耗品の補充/調達の難しい道具の確保
(1) 機材不足: 生徒数の増加(現状20名)に伴う機材(ミシン、現状10台)の不足も、今後起きてくるものと思われる。但しこれについては、新規にミシン5台分の予算はつけてあり、当面は凌げる状況。
(2) 消耗品の不足: 教師、生徒への聞き取り調査の結果、ミシン針の消耗(=破損)が激しく、不足しているとの問題提起があった。TEACAは「ミシンの使い方に問題があり(=無理に布を引っ張る)、それが破損を招く原因となっている。補充は出来ない」との見解である。どんな事情にせよ、ミシン針が不足しては授業に支障をきたす以上、補充はすべきと考えるが、ミシンの使い方には細心の注意を払うよう、教師に指導の徹底を依頼する必要がある。
(3) 調達の困難な道具: これも聞き取り調査の結果、手縫い用の細い針が現地では入手困難であることが分かった。これについては日本から供給することも考えたい。
4.自立運営の困難さ
これは教室立ち上げ前の事業シュミレーションからも分かっていたことであるが、現状裁縫教室の自立運営は困難といえる。教室の数、教師の陣容を現状のままとした場合(=受け入れ可能な生徒数もこれにより限定される)、裁縫教室の運営に必要となる事業費は年間約12万シリングである。一方、現在の生徒が全員授業料を納めたとしても年間2.5万シリングにしかならず、外部資金に頼らなければ、裁縫教室の運営は不可能である。しかも実際の納入実績は約1.5万シリングでしかなく、残りは未納となっている。
授業料収入で教室を賄おうとすれば生徒数を増やすしかなく(授業料のアップは現実的でない)、そのためには教師の新規雇用や教室の増設が必要となり、さらに運営コストが嵩むという悪循環に陥る恐れがある。
自らの自立の道も探っていかなければならないTEACAにとって、裁縫教室運営によるコスト増は確かに頭の痛い問題ではある(そのあたりが、ミシン針補充のための支出でさえ、厳しく臨むTEACAの姿勢にも繋がっている)。長期的に見て裁縫教室の自立運営をどのように考えていくのか、またその実現可能性を少しでも高める方策を、これからも現地と継続的に協議していく必要があるだろう。
【生徒側の課題】
継続出席の困難さ
次に、生徒側の課題、問題点を見てみたい。その第一に、少女、主婦の生徒がともに抱える、裁縫教室への継続出席の困難さが挙げられる。
下表は裁縫教室が立ち上がってから現在までの9カ月間の生徒数の推移である。第2期生はまだ入ってきたばかりなので、ここでは第1期生の生徒数推移に注目したい。教室開始当初11名であった生徒数は、その後12名→15名と増えてきたが、今年2月に12名に減少している。これは途中でドロップアウトが発生したことを意味している。途中で加入してきた生徒もいるので、表面的にはマイナス3名であるが、実質的なドロップアウト数は少女2名、主婦3名の5名である。彼女たちが残っていれば、現在の第1期生の生徒数は17名であったはずで、ドロップアウト率約30%という数字は、決して低いといえるものではない。
ではなぜドロップアウトが起きたのか。その原因はこれも少女、主婦とでは事情、背景が異なる。
(1) 少女の場合: 彼女たちは、村そして家庭内においてさえ、日々やることもなく過ごしていることへのプレッシャーを受けており、自らもそのことを恥ずかしく思っている。そのためそれがどんなものであれ、何か働き口などの話があった場合、「やりなさい」と言われれば、それを承諾するしかない。それが彼女たちが置かれている立場である。ドロップアウトした少女たちは2人とも授業料を完納しており(=本人たちのやる気の現れといえる)、それにも関わらず教室を途中で辞めざるを得なかったというのが現実である。
こうした状況を少しでも改善するためには、何よりもまず裁縫教室に通うことへの両親の理解が欠かせない。そして裁縫教室に通い技術を修得することで、自活に繋がる未来を手に入れられるという「結果」を、裁縫教室自体が実績として示せていかなければならないだろう。
(2) 主婦の場合: 家庭の主婦にとってはやはり家事、育児、農作業、家畜の世話など、家庭での仕事との両立の困難さが、ドロップアウトの一番の原因となっている。現在の授業は月曜日から金曜日の5日間行われており、その間毎日、午前か午後を拘束されることになる。多くの仕事をこなさなければならない主婦にとって、授業への継続出席は非常に厳しいものである。主婦の第2期生を募集しても、恐らく同様の結果を招くだろう。TEACAはこのことに対してまだ特段の対策を講じていないが、主婦に関しては授業進捗をたとえ遅らせたとしても、授業日数を減らすなど、カリキュラムの工夫をしなければならないと考えている。