報告会:「環境とコミュニティから見るタンザニアの今と未来」(JICA東京)

  1. TOP
  2. 投稿
  3. 報告会:「環境とコミュニティから見るタンザニアの今と未来」(JICA東京)
国内活動/イベント

 

陽気もようやく春めいてきた3月25日、現地調査報告会「環境とコミュニティから見るタンザニアの今と未来」をJICA東京にて開催しました。

 

報告会は2部構成で、第1部は09年キリマンジャロ植林ワークキャンプにも参加された井上美恵子氏(慶應義塾大学環境情報学部)による、「タンザニア・キリマンジャロ山における植林活動と住民の意識調査」報告。続く第2部は、当会の元スタッフでタンザニアの旅行会社に3年間勤務された石原裕介氏による、「観光から見るタンザニア」報告でした。タンザニア、環境、コミュニティという切り口からの両者の報告は、当会で取り組んでいる”Rafikiプロジェクト”とも関わりの深い内容であり、非常に興味深いものでした。

(→ Rafikiプロジェクトの詳細はこちら

 

第1部の井上氏の報告では、キリマンジャロ山麓における地域住民による植林の効果について、衛星データを用いた森林の被覆変化解析と、単身村に赴き実施した現場調査から、とくにアンケートによる地域住民の植林および森林に対する認識の変化とを関連づける形で検証がされました。

 

アンケートでは、植林活動に熱心なMaedeni地区とあまり積極的ではないFukeni地区の比較がされ、植林の取り組み-森林の増減-環境の変化(水資源の増減や調達難度など)に対する地域住民の認識と、衛星のデータ解析に基づく実態との間に明確な相関関係が見いだされること、現在キリマンジャロ山で問題となっている国立公園領域の拡大に対する認識に対しても、植林に熱心なMaedeni地区の村人たちの方が認知度が高いという結果が報告されました。

 

衛星画像を使った山麓の森林被覆の変化量については、タンザニアではGIS技術(地理情報システム)が発達しておらず、政府の公式データでさえ座標が合わず、手作業で苦労して実際の地図と照らし合わせたという苦労話や、1970年代と2000年代との間の被覆量変化をキリマンジャロ山の他地域と比較してみると、植林に取り組んできた地域では、隣接する森林の全体が総体としても増えている(=森全体が守られている)という結果が得られたとのことでした。この結果は、長年にわたって植林に取り組んできた住民たちにとって大いに力を得るものとなるでしょう。

 

 

第2部の石原氏の発表では、タンザニアにおけるコミュニティベースドツアーの現状や課題、展望についての報告がされました。報告ではまず、タンザニアにおける主要な観光目的、対象であるサファリ・キリマンジャロ登山・ビーチリゾートについて、多くの現場の写真を紹介しながら擬似体験させてくれました。それと同時に、現地の旅行会社に勤務された同氏ならではの、観光客の視点だけでは見えてこない、現地の問題(観光開発と自然、地域住民の生活の対立)が、合わせて事例報告されました。両者の間のバランスをどのようにとっていくかは、まだまだこれからも難しい問題といえそうです。

 

一方、こうしたマス・ツーリズムに対して、タンザニアでもその実践が根付き始めているオルタナティブツーリズム、エコツーリズム、カルチュラルツーリズム、コミュニティベースドツーリズムといった、自然と人間、開発との共生を考えた”新しいツーリズム”の事例が紹介されました。同氏がそれらに実際に参加してみての考察から、地域に雇用を生んだり、経済的に寄与するなどのメリットが確認される一方で、見せるために事実を改変したり創作してしまう傾向が見られること、また村全体の参加がなければ、本来の意味で地域に根ざしたツーリズムとはいえず、その視点がまだ欠けているとの指摘がされました。

 

まとめとして、新しい形のツーリズムには、

 ① 経済的メリット
 ② 旅行者と住民の情報交換のメリット
 ③ 村の再認識・保存継承のメリット

の3つがあることに触れられました。コミュニティベースドツアーなどのこうした新しい形のツーリズムは、従来のマス・ツーリズムではあまり期待することのできなかった、観光客と地域との一方通行ではない関係性、双方向の作用による地域の伝統・文化維持や、自律的発展に寄与できる可能性が述べられ、最後を締めくくられました。

 

 

参加者の多くが、ワークキャンプの元参加者であったり、タンザニアに縁のある人ばかりで、会場では多くの質疑がなされました。
非常に興味深いご報告をいただいた井上氏、石原氏に心から感謝申しあげます。

 

 

一覧へ