写真: キリマンジャロ山麓に暮らすチャガ民族が編み出した独自の農耕システム“Kihamba”。様々な樹木と作物が混在しており、私たちが考える「畑」のイメージとは大きく異なる。
キリマンジャロ山で長くキリマンジャロコーヒー栽培を支えてきたのは、山に暮らすチャガ民族によって営まれている“キハンバ”と呼ばれる屋敷畑です。キハンバは農畜林を上手く組み合わせ、そこにさらに伝統水路を組み込むことで、年間を通した作物栽培を土地を痩せさせることなく、持続的に行うことを可能としてきた優れた農法です。
そしてこのキハンバというシステムを支えてきたのが、村の上部にある森でした。その森はさらにその上部にある天然林と区別して“ハーフマイル・フォレスト・ストリップ”と呼ばれ、人々の日常生活と深く結びついていました。日本でいえば里山の森にあたりますが、山に暮らす人々はその森から日々の生活に必要な資源や糧を得るとともに、様々な掟や規則を作って守ってきました。キハンバに引き込む伝統水路の水源もこの森の中にあり、伝統的なしきたりによって厳しく守られ、水の利用にも水路の1本1本に利用規則がありました。また、キハンバに不断に栄養を供給していたのは家畜(厩肥)ですが、その家畜の餌となる草や枝葉も、ハーフマイル・フォレスト・ストリップの中から採ってきていました。一般的にキハンバは農畜林+伝統水路によるシステムと捉えられがちですが、森がそのシステムの重要な構成要素を成していることを見逃していると思えます。
2005年、キハンバと一体であったその森は国立公園に取り込まれ、伝統水路の水源の維持・管理や、家畜の餌を採りに行くことができなくなりました(伝統水路のメンテナンスは建前では許可を取ればできることになっていますが、その許可が許認可権を持つ管理当局によって恣意的にコントロールされ、容易におりない)。
図: 山麓住民にとっての里山の森“ハーフマイル・フォレスト・ストリップ”が国立公園に取り込まれた様子。図は、キリマンジャロ山を上から見た状態。図中の(2)、(3)に挟まれた帯状のエリアが“ハーフマイル・フォレスト・ストリップ”。当初の国立公園は、森林限界線(1)より上の部分だけであった。それが2005年、赤矢印のように “ハーフマイル・フォレスト・ストリップ” の下限一杯まで拡大された。
キハンバではキリマンジャロコーヒーだけでなく、チャガ民族の主食である調理用バナナやイモ類、様々な果物などが育てられており、まさに食料と家計の双方を支えてきたといえます。しかし森を人々の生活から切り離す国立公園への編入により、キリマンジャロ山で優れた持続的農耕システムとして機能してきたキハンバは崩壊しようとしています。キハンバが十全な機能を維持できなくなった結果、チャガの人々の生活は収入、食糧確保の両面とも苦しくなる一方です。山の暮らしに将来を見いだせなくなった若者は次々と村を離れ、流出が止まりません。
多くの地域が雨量の少ない熱帯サバナ気候に分類されるタンザニアにおいて、キリマンジャロ山には恵まれた降雨量があり、また土壌も養分に富んでいます。そうした場所で人々が暮らせなくなる政策(国立公園の拡大)が果たして正しいと言えるのか、大きな疑問があります。
写真: “ハーフマイル・フォレスト・ストリップ”の中を流れる伝統水路。今は国立公園に取り込まれ、入ることはできない。伝統水路は水源を含め、毎年数回、利用者たちがメンテナンスし維持されてきた。しかし国立公園に取り込まれた結果メンテナンスができなくなり、多くの伝統水路が放棄に追い込まれた。
少なくとも、人々が里山の森として利用してきたハーフマイル・フォレスト・ストリップは、国立公園から切り離されるべきと当会は考えており、それに向けた取り組みを山麓村と協力して行っています。しかし、一度広げた国立公園をまた縮小するという目標の実現は容易ではありません。ただその間にも、人々の困窮は深刻の度合いを増すばかりです。
このため、森(ハーフマイル・フォレスト・ストリップ)を取り戻すことと同時に、地力が維持できず低下してしまったキハンバでの作物生産性を、コストをかけずに少しでも保っていく方法を考えなくてはなりません。そこで当会は、空中窒素を固定し土壌の肥沃度を増す数種類のマメ科樹種の苗木を、今後大量に山麓村に配布することにしています。これらは育つと家畜の餌や薪、蜜源など、ほかにも多くの用途で使うことができ、多目的樹(マルチ・パーパスツリー)と呼ばれています。
これまで当会は、山麓住民と協力し長くキリマンジャロ山での森林回復のための植林に取り組んできましたが、今後は山麓住民の生活防衛を図っていくため、地力維持・作物生産性の低下抑制を通したキハンバシステムの機能維持、これを目的とした多目的樹の苗木配布にも重点的に取り組んでいきます。また、これと同様の目的のため、籾殻燻炭による土壌改良の取り組みも着手しました。これについてはまた別の機会にご紹介したいと思います。
※関連する投稿記事:「森を守ってきた伝統農法」
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政府の政策変更は容易ではなく、長い時間をかけて理解を求めていく必要があります。また地域組織の育成や能力強化も、長期的視点をもってじっくり腰を据えて取り組んでいかなくてはなりません。
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