この7月末~9月初旬にかけて、タンザニアでの事業調査を実施した。タンザニアの事業年度は7月から翌年の6月までとなっており、例年このタイミングで前年度の事業評価と新年度の事業計画及び予算の立案を実施している。
現在現地において最重要となっている課題は、主力活動地であるキリマンジャロ山において実施された”国立公園の領域拡大”、すなわち森林保護を目的とした、バッファゾーンの森(※)からの、住民排除問題の解決にある。過去の失敗の歴史からも、こうした一方的な管理強化という手法では、キリマンジャロ山の森を守れないことは明らかである。
(※) 地域住民が生活の維持に最低限必要となる森林資源の利用が認められた森林エリア。
タンザニア・ポレポレクラブではこの問題解決のため、(1)法律や条例という”政策・制度面でのアプローチ”、(2)地域主導による森林管理という”手法・仕組み面でのアプローチ”、そして(3)それに取り組もうとする地域住民の自発性・内発的意思を側面から支えていく”ソフト面でのアプローチ”を3本柱とした取り組みを行っている。
これら3本の柱について、少しずつではあるが現地で確実な成果に結びつきつつある。
昨年度は環境保全事業(植林事業)において、排除された地域住民たち自身の手による、国立公園内での植林活動の復活(政府承認)に漕ぎ着くことができた。これは政府側と協議を重ね、地域住民の主体的関与がなければ、キリマンジャロ山の森は守れないということへの理解に繋げられたたことが大きい。
この結果、昨年度キリマンジャロ山で協力しているそれぞれの地域や苗畑グループによって、下表にまとめた植林が実現した。
村々との協議では、地域主導による森林管理を着実に定着させていくためにも、今後も国立公園内での植林に協力して取り組んでいくことが重要との認識で一致した。
さらに今年度は植林という実行面だけでなく、住民たち自身が新たな政策や制度の構築に関与していけるよう、その理解を助けるための集中研修の実現に力を注いていくつもりである。
一方、キリマンジャロ山の森林減少に歯止めがかからないことについては、確かに政策や制度による問題も大きいが、そうした内的要因がすべてとは言い切れない側面もある。これまでキリマンジャロ山では外部から持ち込まれた様々なプロジェクト、たとえば森林の持続的管理を目的としたものなどが、「住民参加」の名の下に実施されてきている。しかしそれらの多くが、残念ながら持続的とは言い難い結果となっている。現場を見ていると、そうしたプロジェクトが結局は、外部者が考えた「出来合いのプロジェクト」や「枠組み」をたんに地域住民に当てはめただけのもので、それがプロジェクトが成功しないもう一つの大きな要因となっているように思える。
地域住民の意思を優先させ、彼ら自身の協議と合意の積み重ねによって、本当にゼロベースから取り組みを形成していくというアプローチは、残念ながらほとんど聞いたことがない。キリマンジャロ山の森林保全、管理における過去の失敗は、外部者として関わる私たちにそうした姿勢を求めているといえるだろう。
外からプロジェクトを持ち込むのではなく、内からの地域の動きを支援し、またそこでの取り組みを後押しするようなものに、国の森林政策や制度を変えていくという方向での協力が、私たちには必要とされている。ゼロから積み上げていくことは、出来合いのものに比べ時間ばかりがかかりそうだが、結局はそれが地域(キリマンジャロ山)に根付く、持続的な森林管理の実現に至る一番の近道だと思える。