事務所には活動の説明を聞きに来る学生さんや、企業の方、取材など、いろいろな方がいらっしゃいます。そうした方のほとんどが、ほぼ間違いなく質問されることがあります。それは、「なぜこのような活動を始めたのか？」、「なぜタンザニアなのか？」、そして「タンザニア・ポレポレクラブの名前の由来は？」です。

前の２つについては比較的どこの団体でも聞かれる内容の質問だと思いますが、最後の団体名の由来については、何か気になったり引っかかったりしないと、なかなか聞かれない質問ではないかと思います。当会の場合、”ポレポレ”という面白い響きの言葉の意味と、名称に込められたその意図は何かという点にほぼ集約されるようです。

“ポレポレ”とは、タンザニアを含む東アフリカで話されているスワヒリ語で、「ゆっくりゆっくり」という意味になります。東アフリカの国々に流れるゆったりとした時間や、そこに暮らす人々の人柄を表す言葉として、このポレポレはよく使われます。ではだからタンザニア・ポレポレクラブなのかといえば、そうではありません。会の名称に込めたメッセージとして、じつはこの”Pole Pole”に続く言葉があるのです。それは”lakini kwa hakika”（＝「でも確実に」）です。

“Pole pole lakini kwa hakika”.　ゆっくりゆっくり、でも確実に！

これには、目の前の成果ばかりを追って、それより大事なものを見失うことのないよう、じっくり腰を落として取り組んでいこうという、タンザニア・ポレポレクラブ自身への自戒を込めたメッセージと、活動を共にする村人たちへの、一緒に一歩一歩確実に歩みを進めていきましょう、というメッセージの、双方の意味が込められています。

そしてもう一つ、タンザニア・ポレポレクラブにとって大事なのは、「クラブ」に込めたメッセージです。「～の会」ではなく、「クラブ」にしたことには、大切な意味があります。

私たちが活動しているタンザニアでは、村人たちが付近で進む森林破壊に対して植林に立ち上がり、すでに２０年近く取り組んでいます。一部の植林地では森が蘇り、確実な変化となって現れてきています。彼らのやっていることは、個別、具体的には植林活動なのですが、もっと大きな視点で見た場合、自分たちの直面する問題を自分たちのこととしてとらえ、自分たちで行動し、解決しようとする姿そのものだといえます。

多くの村人たちは地球温暖化など、地球規模の環境問題のことなど知りません。そういう知識は私たちの方がたくさん持っているようです。しかしそういう知識を持たない村人たちが何をしているかといえば、雨期の農作業にとって一番大切な時期に、その農作業の手を休めてでも、自分たちの身近な環境を守ろうと、１本１本苗木を植えることです。

私たちは確かに、彼らより知識を持っている部分があるかも知れません。そして知識が大切なものであることに疑問を挟む余地はありません。しかしそれはただ持っていることでは、何も変えることはありません。

豊富な情報と知識に恵まれ、地球の未来を憂う私たち。１本の苗木を植える村人たち。村人たちにも足りないものはあるでしょう。しかし私たちにも何か足りないものがあるのではないでしょうか。タンザニアの村人たちのように、それぞれの人にとって問題だと思えることに、小さくても、行動という具体的一歩を踏み出すこと、その大切さとその意味を、村人たちは教えてくれているように思います。一人の力では小さなものかも知れませんが、目的を同じくする何人かが集まれば、それは何倍もの大きな力に繋がっていきます。

目的を同じくする者同士集まり、みんなで話し合い、みんなで決め、みんなで行動していく。そんな姿を私たちの身近で分かりやすく体現しているのが、”クラブ”や”サークル”ではないでしょうか。参加するのではなく、まして外から観戦するのではなく、一人一人の人がその取り組みの主役として主体的に関与しているのが「クラブ」なのだと思います。翻って、それはタンザニアの普通の村人たちが、ライフワークのようにして取り組んでいる姿と少しも変わるところがありません。本来の市民活動とはそういうものなのではないでしょうか。

NGOや国際機関、国家など、世界が抱える様々な矛盾や問題に対して、それぞれが重要な役割を担っていることは間違いありません。しかし世界中にいる「私たち」という一人一人が、具体的行動に踏み出した時に、世界の中で変えられるもの、変わるものは、NGOや国際機関、国家などが変えられるものより、ずっと大きいように思えます。

そうした考えを出発点に、市民活動として「会」ではなく、「クラブ」というものが体現している姿を目指そう、それが”クラブ”という名称に込めたメッセージであり、タンザニア・ポレポレクラブが設立以来掲げている活動理念となっています。

では現状のタンザニア・ポレポレクラブは、タンザニア・ポレポレ「クラブ」になっているのかといえば、残念ながらとても及第点はあげられません。いまの姿は、「クラブ」であるより、「会」のそれに近いでしょう。その「会」を、あと１０年かけて、理念として掲げる「クラブ」の姿に変えていきたいと考えています。