【1.教室に通うことの困難さ】
TEACAの裁縫教室については、これまでも
①教室の運営面での問題(=自立運営)
②受講する生徒側の問題(=とくに主婦層の継続受講の困難さ)
の2つの問題を指摘してきた。
開講後1年を経て、とくに②の問題は、数字の上でも明らかとなりつつある。以下に現状を考察する。
まず表1は、生徒総数(=第1期生と第2期生の合計数)に占めるDrop out者数を示したものである。現時点(’06/8)において、Drop out者数がすでに全体の半数近い45%に達していることが分かる。
これを第1期生と第2期生に分けて表したのが、表2である。’06/8時点で、第1期生は受講開始後1年2カ月、第2期生は8カ月が経過しており、経過期間が長い第1期生のDrop out率が高い(50%)のは当然といえる。
ここで注目したいのは、それぞれ受講開始後半年程度が経過した時点(第1期生では’06/2時点、第2期生では’06/8時点)でのDrop out率が、ほぼ同じ35%と36%という点である(表2※印部)。偶然の一致と見ることもできるが、Drop outが近似の傾向を示して推移するとするなら、第2期生も、受講開始1年後には、Drop out率50%に達すると推測できる。
TEACAの裁縫教室は2年間のコースであり、上記のことから、今後何らかの対策が講じられなかった場合、卒業時の生徒数は入学時の半分か、或いはそれ以下まで減ずると予測できる。
“現状を放置すれば、卒業までに半数以上の生徒が脱落する(可能性が高い)”。これがTEACA裁縫教室が直面している現実であり、或いはこれまでも危惧されてきたことが、数字の上でも明らかになりつつあると言える。
次に表3は、少女クラスと主婦クラスの別に、Drop outの実態を見たものである。 第2期生の募集では主婦の応募はなかったため、Drop outの傾向は、第1期生のデータを対象とする。
表からも、主婦クラスのDrop out率が極めて高いことが分かる(下表※1。’06/8時点で7割近いDrop out率)。また少女クラスのDrop out率も、同時点で42%(同※2)あり、これも決して低い数字とは言えない。
2年間のコースでのカリキュラムは、1年目に手縫い、そして足踏式ミシンを使って、決まったパターンによる衣服を作れるようになることを目標としている。2年目にはパターンのバラエティとデザインの多様化、より高度な縫製技術の習得を目指している。また2年目には、編み機による編み物の技術修得も目指している。残念ながらロックミシンによる仕上技術の修得は、冒頭に触れた事務所の電化遅延の問題から、現状では対応できない。
今回の調査においては、昨年入学した第1期生はすでに女性用のブラウス、スカート、男性用のシャツ、ズボン、子供服などを一通り作れるレベルに達していた(決まった型を使用)。教室が始まった当初は、ミシンを使っている姿を写真に撮ろうとすると、みんなとても恥ずかしがっていたが、今では「これが私の作った服よ、写真に撮って!私の顔もちゃんと写すのよ!」といって誇らしげに服を広げて見せてくれる。ミシンを使う姿なども実に堂々としており、各自が実力と自信を付けてきている様子を伺い知ることができた。
【2.Drop outの背景を探る】
今夏の現地調査では、こうしたDrop outの原因についての調査も実施した。以下は第1期生でDrop outした主婦、少女それぞれの生徒たちへの、Drop outの要因、背景に関する聞き取り調査である。
主婦については病気の1名を除き、残り全員が”家事との両立不可”を理由として挙げており、これは以前から懸念されていたことが、現実のものとなったと言える。
これに対して現在も続けている主婦生徒2名に、「なぜ続けられるのか」についての聞き取りも行った。その結果、受講継続のためには、
(1)本人の裁縫技術習得に対する確固たる目的意識と、継続への強靱な意志
(2)家庭、とくに夫の理解(=家事の分担)
が不可欠であることが分かった。
家事との両立を図り、主婦にも参加しやすい環境を整え、その継続性を確保していくためには、基本的には裁縫教室サイドで、現在の主婦対象クラスの受講形式を抜本的に見直す(=現状の毎日受講を週2回程度に減らす)以外、方法はないものと考えている。その上で本人のやる気を強化し、家庭の理解を求めていく努力が必要となってくる。
一方、少女はというと、Drop outした5人の生徒それぞれが異なる事情を抱えており、主婦に比べ、より複雑で根深い問題を見て取ることが出来る。このうち知的障がいを持っていた1名の生徒については、授業進度についていくことが出来ず、残念ながら、現在の裁縫教室では適切に対応していくことが出来ない。
それ以外の4名の生徒については理由は様々であるが、生徒、親に対する面接調査の結果、概して村の中でも経済的困窮状態に置かれていることが伺われた。
裁縫教室に通っている少女たちは全員、中学校に進学できなかった少女たちである。その理由には学力面で断念せざるを得なかった者もいるが、一方で学力はありながら、家庭の経済的事情で進学を諦めざるを得なかった者たちもいる。そうした少女たちの家庭は、たんに経済面での問題だけでなく、全般的な家庭環境そのものに問題を抱えており、そのことが少女たちの立場を微妙なものとし、また行動に少なからず影響を及ぼしている。
【3.少女たちを側面から支援する】
彼女たちの、たんに裁縫教室への継続性を確保するためだけでなく、家計収入を少しでも向上させ、生活をより安定したものとし、さらには将来的な自活への道を確保していくためにも、こうした少女たちの継続受講を可能とする施策や、何らかの手だてが必要とされている。 そのためにまず求められるのは、本人、そして両親の、裁縫教室に通うことに対する強い動機付けである。それはとりもなおさず裁縫教室に通うことにより、上述したような収入向上や自活といった将来像が確信できるのかということにかかっており、そのためにも具体的成果や結果を示していく必要がある。
もちろん裁縫教室自体の目的は、生徒たちの就業や収入向上を保証するものではない。しかしたんに技術を身につけさせるだけでなく、卒業した生徒たちがそうした機会やチャンスにより恵まれ、結果を得られるような具体的側面支援や補完、補強を、裁縫教室として実施していくことを決定した。
その施策の一つとして、裁縫教室の卒業生が、卒業時にタンザニアの国立職業訓練校(VETA)で、技術認定試験を受けられるようにしていく。TEACA裁縫教室の技術レベルは、試験を合格するに十分な実力があると見ている。試験合格者には資格が付与され、生徒たちの就業可能性を具体的な形で後押しすることになる。
卒業生が公的機関の技術認定試験を受けられるようにするためは、TEACAの裁縫教室が公的に認可される必要があり、今年度その取得を目指し、担当行政機関との協議、調整を進めることとする。
また、生徒たちが自分たちの技術レベルを客観的に判断できるように、他地域で実施されている裁縫教室へのスタディツアーを実施する。さらに可能であれば、就業先の選択肢やアイデアを具体的に広げられるよう、地元の零細な縫製工場などへの見学機会も提供したいと考えている。
【4.その他の課題・問題点、決定事項】
また裁縫教室の別の問題として、教場(TEACA事務所の一室)の狭さが挙げられる。現状10人以上の生徒が6畳程度の広さの部屋で学んでいるが(当然ミシンも一緒)、教師が指導のために歩くことも容易ではなく、効率的な指導が行える環境とはいい難い。ただ教室の拡張(実際には別棟としての増築が必要)をするための予算は無く、現状手の打ちようがない。
その他、今夏の調査において、以下の事項を取り決めてきた。
●ミシン等の機材の増設
→編み機(×2)/オーバーロックミシン(×2)/ボタン穴用ミシン(×1)
●教師給与のアップ(月約3千円→約4千円へ)
●10月末に卒業する卒業生9名への卒業記念品の贈呈
→ハサミ/テープメジャー/布