Rafikiプロジェクト開始『村の自慢を探し求めて』('10/5)

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海外活動その他

 

【はじめに: 現地プログラム推進事業の開始】

 

ポレポレクラブでは、キリマンジャロ山の森林回復を目指して、現地のNGOであるTEACAと協力して、植林を始めとした様々な取り組みを支援してきた。そして、少しずつではあるが、「森林の利用を生活に必要な最小限に留め、利用した分は植えて育てる」という精神が芽生え始めていた。しかし、村人たちの森林回復のための活動圏も、彼らの生活圏も、その多くの場所が新たな森林政策によって拡大された国立公園の範囲内として指定されてしまい、森林減少の罪が彼ら村人にあるかのように扱われている。

一般には、国立公園としての法的な指定は、破壊活動を抑制し森林が守られるように考えられがちであるが、キリマンジャロ山の村で見聞きしてきた現実は、「森が守られる」とはかけ離れたものであった。なぜなら、国立公園の範囲の拡大は、森からの村人の排除に成功したかもしれないが、それと同時に「森を守りたい」との精神までをも排除してしまい、違法伐採を増やすなど、森林破壊の進行が容易に想像される状況を作り出していたからである。”利用した分は植える”という精神の中にあった「森を守る」意義あるいは責務を、新しい森林政策は失わせてしまおうとしているのである。

この状況を解決するためには、拡大された国立公園の範囲を以前の状態に戻した上で、村人自らが管理主体となって「森を守る」活動に携わっていく地域主導の森林管理の体制を整えていくことが急務である。そのため、タンザニア・ポレポレクラブでは、この地域主導の森林管理を実現するための取り組みを開始している。それは、

① 拡大適用された国立公園の指定範囲を以前の状態に戻す取り組み

② 村人による森林管理を実現するための管理体制の整備のための取り組み

③ 政府による法整備のための取り組み

④ 「森を守る」意義を再び見いだし、後世に伝わる絆を回復させるプログラムづくりのための取り組み(地域住民のモチベーションの確保)

である。

 

本稿は、事務局アルバイトが主となって取り組む”④ 「森を守る」意義を再び見いだし、後世に伝わる絆を回復させるプログラムづくりのための取り組み”について、その最新情報を報告するものである。

 

【キリマンジャロ山の村への調査渡航】

 

上述したように、私たち事務局アルバイトは、”「森を守る」意義を再び見いだし、後世に伝わる絆を回復させるプログラム”をつくる「現地プログラム推進事業」に取り組んでいる。それは、どんなに優秀な森林管理の体制や法体制が整っていたとしても、その体制の中で活動する村人に森を「守りたい」という”気持ち”が無ければ、その優秀な体制もただの飾りと化し、森林破壊が進む現状に変化を与えないからである。私たちは、村人がプログラムをつくるところから主体的に参加でき、村人自身が内発的に森を「守りたい」と思うようになり、そしてその想いが後世に伝わる絆を回復できる、これらを達成できるプログラム(あるいは仕組み)をつくることを「現地プログラム推進事業」の目的としている。

“守りたい” と感じる大切なものを思い浮かべるとき、思い浮かべるものは人によって様々だが、それらに共通して言えることがある。それは、その「守りたいもの」はその人にとって「好きなもの」でもあるということである。逆を言えば、「好きなもの」であれば「守りたい」という気持ちも自ずと湧いてくるのではないかとも考えられる。私たちはこのような視点に立って考えた結果、目指すプログラムには、村にしかない自慢(財産)を好きになってもらう要素を盛り込むことが必須であるという考えに至った。なぜなら、村の人にとっての自慢となり得るものには森の恩恵を受ける財産(例えば、きれいな水)が多いことから、好きになった自慢を守りたいと思う気持ちがそのまま森を守りたいと思う気持ちに繋がるのではないかと考えられるからである。

それでは実際に村の人にとって、村にしかない自慢や財産には何があるのか?村の人たちは森やその管理についてどのような意識を持っているのか?プログラムづくりを推進していく上で重要なこれらの点を調査するため、2010年2月から3月にかけての約3週間に渡り、キリマンジャロ山のテマ村に渡航し、調査活動を実施した。以降では、その調査内容や成果について、その最新情報を報告する。

 

【コミュニティベーストツアーの視察】

 

私たちがつくろうとしている現地プログラムは、テマ村の村人たちに自身の村の財産を自慢として好きになってもらうことを目的としたものである。そのために、村の財産を魅力に思ってもらうための「魅せる工夫」を考案しなければならない。私たちは、「魅せる工夫」のアイデアの参考とするため、テマ村と同様にキリマンジャロ山麓に位置しているMachame(マチャメ)およびMarangu(マラングー)で実施されているCommunity Based Tour(コミュニティベーストツアー)に参加した。マチャメおよびマラングーは、両地ともテマ村と同じくチャガ民族が生活している地域である。

 

キリマンジャロ山周辺を示した地図で、参加したツアーが実施された マチャメ(Machame)およびマラングー(Marangu)の位置を黒枠で示した。 また、調査対象地であるテマ村の位置は黒星印で示した。

キリマンジャロ山周辺の地図(キリマンジャロ山周辺を示した地図で、参加したツアーが実施された。マチャメ(Machame)およびマラングー(Marangu)の位置を黒枠で示した。また、調査対象地であるテマ村の位置は黒星印で示した)。

 

コミュニティベーストツアーは、”訪問地域における持続的な雇用の創出や、伝統文化および自然の保護のために、その地域のコミュニティメンバーが一帯となり行うツーリズム”で定義されるものである。前述したように、マチャメおよびマラングーで開催されたこのツアーへの参加目的は、他団体が運営するツアー(プログラム)において、自身のチャガ民族の文化がどのように紹介されているのかを調査するためである。定義にもあるように、コミュニティベーストツアーは”その地域のコミュニティメンバー”が主体となって”伝統文化および自然を守る”ものであり、私たちが取り組んでいる現地プログラム推進事業における”村人が主体となって参加できるプログラムづくり”の精神に共通するため、私たちの事業の参考になると考えられたからである。

また、自身の村の財産を振り返ってもらいたいとのねらいから、テマ村の人たちにも参加希望者を募り参加してもらった。それは、日々の生活の中ではなかなか気づきにくい自らの文化や環境の価値や重要性を再認識してもらい、参加した村人たちがツアーの中で何を感じたのかを探るためである。

マラングーのツアーでは、過去にチャガ民族がマサイ民族との戦争時に利用したトンネル、およびチャガ民族博物館を見学する内容であった。トンネルは長期の戦闘にも対応できるように、内部は様々な部屋に分かれている。そんなトンネルの内部に実際に入って、その構造を直接見学することができた。また、チャガ民族博物館では、チャガ民族の伝統家屋、生活に利用する様々な道具、祭典の時に利用する楽器など、チャガ民族に関する様々なものが展示されていた。そこではチャガ民族の衣裳を纏ったガイドからチャガ民族に伝わる風習や慣習の説明を受け、チャガ民族の伝統文化を中心に知識や理解を深めた。

マチャメのツアーでは、チャガ民族が利用するもしくは利用していた薬草について、その処方などをガイドが実演を交えて説明していくパフォーマンスから始まり、祈祷師が儀式をするために使っていたという洞窟、岩が風化されてできた石の橋などを見学し、それらについての歴史的背景等の説明を受け、チャガ民族がいかにして身の回りにある自然を活かしてきたかを中心に知識や理解を深めた。

両ツアーを通して、参加した年配の村人たちは、ガイドの説明や展示品の数々についてメモを取ったり、懐かしそうにする場面が見られたりしたが、若い世代の村人たちは興味を抱いているようには見受けられなかった。このことから伝統文化に対しては、年代ごとに認識差があることが伺え、別日程で実施した村人対象アンケート(【村人対象のアンケート分析】参照)も参考にして、全ての年代において関心をもってもらえるような現地プログラムづくりが要求されることを強く感じた。

 

ガイドの説明に聞き入るテマ村の村人たち。参加したマラングーのツアーにて、ツアーガイドの説明に熱心に聞き入るテマ村の村人たちの様子。奥に並んでいるのが村人たち。

ガイドの説明に聞き入るテマ村の村人たち。参加したマラングーのツアーにて、ツアーガイドの説明に熱心に聞き入るテマ村の村人たちの様子。奥に並んでいるのが村人たち。

 

今回の両ツアーは、私たちの現地プログラムづくりに向けて非常に参考になったと言える。その理由として、ツアーではマチャメおよびマラングーそれぞれで、自分たちの民族の伝統文化や自分たちの村にある自然遺産など、そういった自分たちの土地にある自慢を効果的に紹介していたからである。

今回のツアーで紹介されていたものの中に彼らの先祖が利用していたトンネルや洞窟があったが、それがただ単にそれらの外部形態を見学させるものではなく、実際に中に入り、内部構造などを直接見学できた。このことで自分たちの先祖と同じ目線に立つことができ、より先祖が実践していた営みに近づくことができる。そういった視点から自分たちの土地を見ることで、村の財産の再発見にも繋がり、村人たちの村の財産に対する興味を向上させる効果が期待できる魅せ方であったと言える。  また、ツアーの中で受けた薬草に関しての説明の際も、その処方についてパフォーマンスを交えて説明をしていたが、このことも先祖たちが薬草を身近なものとして利用していたことを伝えるための有効な方法として参考となった。

以上のことから、チャガ民族が居住するテマ村以外の地域で実施された伝統文化を紹介するツアーに参加したことで、実体験を交えた村の財産の紹介が、参加者である村人の興味の向上に有効であることがわかった。そのため、私たちのつくる現地プログラムにおいて村の財産を自慢として紹介する際に、村人自身に実演や体験の実施者として参加してもらうことが必要であると考えた。このことは同時に、村人に主体的に参加してもらうという点でも、現地プログラムの目指すべき点と一致しており、村人が村の財産を自慢として好きになるための効果的なプログラム構築に役立つと考えている。今後は、以上のことも踏まえ、プログラムの具体的な骨子を考案していく。

 

【テマ村での山歩きで知った村の自慢】

 

前述したように、私たちが取り組む「現地プログラム推進事業」は、村の中にある財産を”自慢”として好きになってもらえるようなプログラムをつくるものである。そのため、村の中で自慢となり得る財産に何があるのかを調査することが必要不可欠であった。そこで私たちは、テマ村の財産となる土地や物を調査対象地および調査対象物として選定し、それらに関わる詳細な情報を獲得するための調査活動を実施した。

また、私たちのつくろうとしているプログラムが村人を主役とするものであることから、村人とそれら対象物との相互関係を知ることも必要であった。そのため、対象物に対する村人たちの財としての認知度や理解度を知る目的で、この調査活動にテマ村の村人にも同伴してもらい、村人自身から説明を受ける形を採った。さらに、自身の村の財産を巡って他者に説明する機会を設けることで、その財産に対する理解や興味を向上させることも、村人の同伴を実行した狙いの1つである。これは、理解や興味の向上が、ものごとを「好き」になる必要条件であると考えたためである(例えば、日本人が「タンザニア」を好きになるときは、渡航や交流を機にタンザニアに対する理解や興味が深まったからである、など)。

加えて、より自身の村の財産に対する興味や重要性の理解を向上させるために、テマ村と同じくチャガ民族が住む他の地域における財産とその地域住民との相互関係を知り、自身と比較できる環境をつくることが効果的であると考えた。そのため、チャガ民族が暮らすマラングーやマチャメのコミュニティベーストツアー(詳しくは【キリマンジャロ山のコミュニティベースドツアー視察】(前掲)を参照)にテマ村の村人と共に参加した上で、それらに参加した村人たちと同伴で本調査活動は実施された。

調査対象地および対象物の選定は、2009年度のワークキャンプまで実施されていた「山歩き」で見学されていた対象を基にして選定した。尚、「山歩き」とは、ワークキャンプの日程の中で、ワークキャンプ参加者を対象に実施されたものであり、キリマンジャロ山に存在するテマ村の伝統的な場所や物、貴重な自然を歩いて見学したツアーのことである。このツアーでテマ村やチャガ民族に特異な場所や物が紹介されていたことから、村の自慢となり得る対象が多く盛り込まれていると考えられ、このツアーで見学された対象を基に対象物を選定し、それらの全てを見学して周りながら、具体的な情報を同伴した村人の説明から収集した。

 

テマ村の村人と共に巡った山歩き。テマ村の村人と共に村の財産を巡る山歩きを行い、村人に質問をしながら説明を受けている様子。

テマ村の村人と共に巡った山歩き(テマ村の村人と共に村の財産を巡る山歩きを行い、村人に質問をしながら説明を受けている様子)。

 

上記の村の財産を探る調査活動の結果、20以上の選定された調査対象物のうち、約15の対象物が彼ら村人の自慢となり得る財産として重要であると判断された。尚、「約15」としたのは、未だ情報収集が不十分な対象物も含んでおり、最終的な数を確定できていないためである。これらの対象が村の自慢になり得る財産として評価されたのは、以下の点を満たしていたからである。

 

①「森を守りたい」という気持ちにつなげるためには、森との関与が深い財産でなくてはならない。そのため、森林の中に位置する、もしくは森林の恩恵を受けているとわかるものであること(自慢として評価した全ての対象物で該当)。

②村の人が残すべき物として考えるのは、何らかの形で過去から現在へ伝えられてきた物である性質が強いと考えた。そのため、その村で伝承されてきた形跡が見られたものであること(例えば、自身の代々の先祖が眠るとされる樹木、先祖がマサイ族との戦闘を避けるために利用した隠し道、などが該当)。但し、テマ村の若年層の多くは村を出てしまっているなどの現状から、これらのほとんどについて、今後の伝承の可能性が低くなっている傾向にあることが、村人との会話の中で明らかとなっている。

③自身の暮らしに密接に関与しており、かつ外部の人間(例えば、私たちポレポレクラブの人間)から見たときに何らかの特徴を説明できるものであること(チャガ民族が工夫を重ねて確立してきた農耕システムや伝統水路、などが該当)。

 

以上の点に該当したものが、調査の結果として村の自慢になり得る財産として評価されたものであり、具体的にどんなものが該当したかについては、次号以降に「コラム」として掲載していく予定である。

テマ村の村人が村の財産を自慢として好きになってもらえるよう、村の財産についての調査活動を実施し、自慢となり得る対象物を明らかとした上で、それらの詳細な情報を収集した。今回の調査で収集された情報が、村人に見やすく理解しやすい形でまとめられた成果物を作成することが必要である。そのため今後は、上記した自慢となり得る財産を、見やすいイラストで位置情報と共に表現した「イラストマップ」の作成に取り組んでいく(詳しくは【村人の自慢が詰まったマップづくり】(後掲)を参照)。

 

【村人宅での2日間の生活体験調査】

 

テマ村の人々はキリマンジャロ山の森林の中に暮らしており、森と密接な暮らしをしている。そのため、森林の中に存在する財産が重要なものであったとしても、それらが彼らの日常の風景の中に溶け込んでしまい、その存在が当たり前の物として特別視されなくなってしまうことが考えられる。そのような状況の中で、村人と森林の中の財産との相互関係を明らかとしていくために、村人の口から聞いた情報だけでなく、私たち外部の人間が彼らの日常生活を体験した上での調査情報を得ることも有効である。なぜなら、村の人にとっては日常の風景に溶け込んでしまっている何気ない物の中には、そこで生活したことのない私たちに特別なものとして映ることが期待できるからである(例えば、村の人が日常的に何気なく通っている道のりには、私たちが見れば特別と思える歴史的財産が存在している、など)。そのため私たちは、日常生活の直接的調査のために、村の人の自宅に宿泊し、彼らの日々の活動を体験することを通して、生活の中に溶け込んでいる森林との接点を調査することを試みた。

この調査は、テマ村に派遣されたポレポレクラブの4名が別々に村人宅にホームステイを行い、滞在した家庭の生活を2日間体験するものであるが、実際に滞在した家庭の世帯主の職業は、農業従事者(3名)および学校教諭(1名)であり、それぞれの家庭で農業活動(家畜の世話なども含む)、主婦業などについて実際に体験した。

この調査の過程で、村人にとっては当然のことであった行為が、私たちにはエコロジーに見える行為であったなど、興味深い発見が確認されている。実際の調査成果については、村人対象に実施したアンケート調査(詳しくは【村人対象のアンケート分析」を参照)の結果と合わせた分析を行うため、次号にて報告する。

 

【日本の自慢を小学生に紹介】

 

テマ村内にあるOlimo(オリモ)小学校において、現地の小学生を対象として文化紹介を行った。目的としては、”日本”という国をタンザニアの子供たちが自慢という観点で知ることにより、この紹介を聞いた子供たちが自分たち自身の村のことや民族のことを改めて考えてもらうきっかけづくりや、”自分たちの自慢って何だろう?”と思うきっかけをつくることである。そういった意識が、彼ら自身の回りがいかに財にあふれているかというような、村の魅力の再発見につながるのではないかと考えたからである。また、私たちのつくる現地プログラムは当然のこととして、村人から関心を持ってもらえるものでなくてはならない。そのために、現地の子供たちがどのようなものに興味を持つのか探ることも目的である。

実際の内容は次の通りである。まず日本の自慢として”森””水””農業””テクノロジー”の4つを挙げ、それぞれについて写真を利用しながら具体的に紹介を行った。そして、自慢の1つにも挙げた”テクノロジー”によって自分たちの自慢である”森”や”水”や”農業”を失おうとしている現実を伝え、この現象は自然を顧みずに便利さだけを追求する場所なら日本だけでなく世界中で起こっていることを訴えた。そのうえで最後に、”あなたたちの自慢は大丈夫ですか?”という質問を子供たちへ投げかけることで”自分たちのこと”として村に目を向けてもらう効果を狙って、紹介を締めくくった。

 

小学生を対象に日本の自慢を紹介。テマ村内に存在するオリモ小学校の小学生を相手に、写真を利用して日本の自慢を紹介している様子。担当の先生にスワヒリ語・英語の通訳としての協力を得た。

小学生を対象に日本の自慢を紹介。テマ村内に存在するオリモ小学校の小学生を相手に、写真を利用して日本の自慢を紹介している様子。担当の先生にスワヒリ語・英語の通訳としての協力を得た。

 

この様な文化紹介をオリモ小学校の3~6年生に対して実施し、低学年が関心を持つことと高学年が関心を持つことの違いなどが子供たちの発言の中に見ることができ、この時の発言が、同日に実施した小学生対象のアンケート調査(詳しくは、【村人対象のアンケート分析】を参照)の結果の解釈に役立つものと考えられる。アンケートの調査結果と関連付けた詳細な報告は、次号にて報告する。

 

【村人対象のアンケート分析】

 

私たちが作ろうとしているプログラムは、村人が主体的に参加して森を守る意義を見出してもらうものであり、つまりはプログラムの主役はキリマンジャロ山に生活する村人である。そのため、決して私たちから何かを主を与えるものであってはならない。なぜなら、何かを好きになり守りたいと思ってもらうようになることを目的としたこのプログラムでは、こちらから与えてしまったのでは押し付けになり、村人自身が内発的かつ持続的に「森を守りたい」と思う気持ちを持ちづらくなるからである。このような考えから、村人が主体的に参加できるものとするため、村の人たちが森について、森の減少について、村の自慢について、どのように考えているのか?など、村人の視点を知る必要があった。そのための情報収集法として、村人を対象として森や村について問うアンケートを作成し、渡航期間中に村人から回答を得た。

アンケートの回答は、TEACAの事務所に30人の村人(主に40~60歳代の農業従事者)を招き、事前に用意したアンケート用紙に記述された質問事項を質問して回答してもらうインタビュー形式で実施された。同様の質問事項を設定したアンケート調査はオリモ小学校の教師を対象としても実施し、配布したアンケート用紙に記述してもらう記述式にて実施した。加えて、オリモ小学校に通う3年生~6年生の4学年の小学生を対象としたアンケート調査も実施しており、教師と同じく記述式により回答を得た。

 

村人を対象に実施したインタビューの様子。TEACAの事務所のスペースを借りて、村の青年にスワヒリ語・英語の通訳に協力してもらいながら、村人に対して森に関わる事項についてインタビューを実施した。

村人を対象に実施したインタビューの様子。TEACAの事務所のスペースを借りて、村の青年にスワヒリ語・英語の通訳に協力してもらいながら、村人に対して森に関わる事項についてインタビューを実施した。

 

質問事項は、回答者の子供の頃と今の状況について生活、環境、職業(農業)環境の変化を問うもの、植林の意義について問うもの、村の自慢について尋ねるもので主に構成されている。

回収された30人の村人のアンケートを分析した結果、「森」を村の自慢として挙げる村人がほとんどであるにも関わらず、森林減少に対する危機感を感じている回答の数は非常に少ないなどの興味深い結果が得られており、現在はより詳細な分析を進めている。教師および小学生を対象に実施したアンケートの分析を含め、詳細の分析成果は次号のニュースレターにて報告する。

 

【村人の自慢が詰まったマップづくり】

 

前述したように、私たちでつくろうとしているプログラムは、村の自慢や財産を好きになってもらうことを通じて、森を好きになり守りたいと考えるようになることを狙ったものである。そのため、村人にとっての自慢や財産がわかりやすくかつ興味をもって一見できる形でまとめられたツール(媒体)の存在が有効である。私たちは、その機能を果たしてくれるツールとしてイラストマップを作成することを決め、その作成を進めている。

 

踏査活動の様子。村の財産を村人自身から説明を受け、今まで作成してきた地図と照らし合わせていった。

踏査活動の様子(村の財産を村人自身から説明を受け、今まで作成してきた地図と照らし合わせていった)。

 

イラストマップとは、山歩き(詳しくは【テマ村での山歩きで知った村の自慢】(前掲)を参照)や村人たちからのヒアリングによって村の自慢や財産であると評価できたものを、それが存在する場所(例えば、先祖の眠る木がある場所、自分たちが植林した場所、とっておきの薬草がある場所など)に、イラストとキャプションを配置したマップ(地図)のことである。ここで重要となるのが、もちろん村人にとっての自慢が盛り込まれていることもそうであるが、それに加えて、村人自身を主役にして描かれている(例えば、植林地だけでなく、植林に参加した村の小学生も描く、など)ことである。つまり、村の財産と共に自分がそこに主役として描かれており、そのことを自慢して廻りたくなるようなマップであることが重要である。なぜなら、このようなマップが完成すれば、そのマップを見ながら村の自慢を村人と歩き回るツアーを実施することもできたり、日常でもマップを通して村の自慢に触れる機会が増えたり、村の財産に目を向け愛着を持たせる効果が大いに期待できるからである。

これまでポレポレクラブでは、約5年間の現地踏査の成果として手書きで少しずつ書き加えられていった地図を作成してきた。今回の現地調査では、その作成された地図に沿って再び村人との”山歩き”として踏査調査を実施し、正確な位置情報を獲得するためにGPSを利用して村の自慢となり得るものの位置情報を正確に記録していった。

加えて、マップのイラストやキャプションの情報源となる情報を獲得するため、踏査活動にTEACAのリーダーや村人にも同伴してもらい、村の自慢として紹介できそうな対象物について、その認知度や正確な知識をインタビューしながら山歩きを実施した。現在は、撮影した対象物の写真とインタビューの情報を元に、マップに当てはめるイラストとキャプションを作成し、GPSの位置情報を基礎に作成された地図の上に当てはめていく作業を進めている。

目的が達成されるマップに仕上げるために、村人が主役になって描かれていることが重要であるのは前述で述べたとおりである。その結果、村人がマップを見ればその場でお互いに見せ合いながら談話が始まるほどの親しみやすいものであり、村人でない第三者が見れば村人を想像できるものであることが望まれる。しかし、現在作成している第1稿が完成した段階では私たちの意見が主に反映されたものであるため、村人や第三者の視点を盛り込むための対策が必要である。そのため今後は、第1稿のイラストマップを完成させてアフリカンフェスタでの反応や現地の村人に届けた際の反応から改善点を見出す必要がある。また、未だ村人にとっての存在価値が曖昧なままの対象物(例えば、名前だけ教えてもらえたが、自慢となる理由や詳しい特徴が不明な植物、など)の追加情報をメールまたは現地渡航によって収集し、それらをマップに盛り込むべきかどうかを検討する必要がある。

 

村の自慢が存在する位置を標した地図(GPSより)。村人との山歩きの結果得られた村の自慢となり得るものの正確な位置情報をGPSにより獲得し、山歩きで辿った軌跡と各々の位置を標した図

村の自慢が存在する位置を標した地図(GPSより)。村人との山歩きの結果得られた村の自慢となり得るものの正確な位置情報をGPSにより獲得し、山歩きで辿った軌跡と各々の位置を標した図。

 

【おわりに: 今後の挑戦】

 

私たち事務局アルバイトは、村人たちに「森を守る」意義を再び見出し、後世に伝わる絆を回復させるために、村にしかない自慢(財産)を好きになってもらうという考えで、現地プログラムを作ろうとしている。

そのために現地調査として、村にしかない自慢や財産には何があるのか?村の人たちは森やその管理についてどのような意識を持っているのか?を知るべく、テマ村内の山歩き、住民宅での生活体験調査や村人対象のアンケートを実施し、その中で彼らチャガ民族の多くの文化に触れた。

その結果として私たちが学び得た彼らの文化とは、長い時間をかけて森と近く関わる生活を送ってきた彼ら自身が、試行錯誤の結果に生み出したものである。その文化は、その主たるものとして”自然の力を借りすぎない”精神が深く文化に刻まれていた。”自然の力を借りすぎない”精神が築いてきたもの、それは”森と持ちつ持たれつの関係”である。そのような、彼らと森とを結ぶ精神や関係を反映したもの、たとえば彼らの農業システム、伝統水路や薬草として利用する植物などが、村の至る所に見られた。それこそが彼らにとっての村の自慢や財産になりえるのではないだろうか?と私たちは考え、また村人たちからのヒアリングによっても、そう言った解答を得ることができた。

 

チャガ民族の伝統水路。この伝統水路は、村の至る所に張り巡らされており、森と村人との強い繋がりを持った村の財産である。

チャガ民族の伝統水路。この伝統水路は、村の至る所に張り巡らされており、森と村人との強い繋がりを持った村の財産である。

 

そのような村の自慢や財産を活かして、それに興味を持ってもらい、改めて村人たちに村の魅力を再認識してもらうために、私たちは現在、具体的な一歩としてイラストマップ作製に取りかかっている。そこに住む村人にとって、普段身の回りにあるものの重要性や、自分にとってそれがどんな存在であるのかは気づきにくいものである。このマップが村人たちの手に渡った時、村の自慢や財産に目を向け、自分にとってそれがどんな存在であるのかを再認識し、それに愛着を持たせる効果が期待できる。

また彼らチャガ民族の文化とは、森や水などの自然と絶妙なバランスで成り立っていた。そこには当然のこととして、森があるからこそ自分たちの生活が成り立っているという意識や、森が自分たちの生活システムの中にどのように組み込まれているかという意識が、村人自身の中に存在していたはずである。しかしながら、現在の村人にとってそれらの意識は、あまり強いものではないと村人対象アンケート分析(「森」を自慢として挙げる村人がほとんどであるにも関わらず、森林減少に危機感を抱いている回答の数は非常に少ないという部分等)などから伺えた。そのことから、村人たちに森と生活との繋がりの認識を強めてもらわなければならない。そのような意識なしに、「森を守る」意義は見出しにくいからである。そこで、森と彼らの生活を結ぶ架け橋となるのが、彼らが過去から築き上げてきた文化や精神である。

彼らチャガ民族の文化や精神は森と密接な関係から生まれてきたものであると述べたが、森と生活との繋がりの意識の強くはない現在だからこそ、彼らの文化的、またそれを築き上げてきた歴史的な視点から自分たちの村や森を見つめ直すことを、プログラムの要素として、現在作成しているイラストマップはもちろんのこと、取り入れていく必要がある。またその他にも、現地プログラム推進事業をより確実なものとするため、子供たちが手に持ちながら、自らの村や森を探検できる”ガイドブック”や、自らの民族の文化や歴史、村や森の財産などを楽しみながら学ぶことのできる”テマ村かるた”などのコンテンツを作っていくつもりである。そのためにも、村人や村のことをより理解する必要があるため、まずは村人に実施したアンケートを詳しく分析するところから着手する。

村人たちは今までの森のための努力にもかかわらず、新たな森林政策によって森林減少の罪が、彼ら村人にあるかの様な扱いを受け、深い挫折を味わった。そんな深い挫折を味わった村人たちが、それを乗り越えた時、村人たちは以前よりも強い絆で結ばれ、立ちはだかる問題に対して自ら考え、一丸となって立ち向かう大きな力を手にしているであろう。そんな日がいつか訪れるように、私たちアルバイトの挑戦は続いていく。

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