事務局日誌: カップの中のコーヒーから見えてくるもの

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電子版ナショナル・ジオグラフィック誌に「気候変動でアラビカ種コーヒーが絶滅!?」という記事が掲載されました。この記事によるとイギリスの王立植物園キューガーデンの研究結果では気候変動により2080年までに野生のアラビカ種コーヒーが絶滅するというのです。世界中でコーヒーを常飲している人は多く、また私たちポレポレ・クラブが活動に取り組んでいるタンザニアはコーヒー豆の産地であることから関心を引くトピックではないでしょうか。

日本で流通しているコーヒーにはアラビカ種(主に自家焙煎用)とロブスタ種(主にインスタントコーヒー用)の2種類があります。前者は味は良いですが気温や土壌、雨量といった栽培条件が限定される上、病害虫に弱いという特徴があります。後者は前者に比べ栽培条件が緩く成長が早く栽培量が多いのが特徴です。タンザニアでは両種栽培されていますが、アラビカ種はここ30年の間に生産量が減少傾向にあり、逆にロブスタ種は増加しています。アラビカ種は前述のように栽培管理が難しいので、肥料や農薬を使用せざるを得ません。かつては政府の補助によりコーヒー農家はそれらを無償もしくは安価で入手できましたが、1980年代に行われた構造調整により緊縮財政策が実施され、政府からの支援が絶たれてしまいました。この結果農家の方々の負担が大きくなると共に世界的なコーヒー価格の下落により収入は下がり、これが生産意欲の低下を招いて栽培を放棄するという状況になってしまいました。特にキリマンジャロ州での生産量の下落がタンザニアにおけるコーヒー生産量の全体的な減少に大きく影響しています。ですが近年、タンザニア政府は南部でのコーヒー生産拡大策を行なっておりルヴマ州やムベヤ州での生産量が増え、全体的な減少傾向は緩やかになってきています。

アラビカ種は、その脆弱性から生産農家は野生種を常に利用して栽培種の多様性を保持しているそうです。ですがその野生種の遺伝的ルーツを辿ると17~18世紀にエチオピアで採取されたごく少数の原木で、遺伝的な多様性が非常に狭いとのことです。アラビカ種は世界におけるコーヒー生産量全体の7割。野生種の絶滅は栽培種への影響も甚大です。今回の研究では様々な気候条件のもとでシミュレートし、最悪の条件下では2080年には野生種が絶滅する恐れがあるという結果が出たそうです。これには森林破壊の要素は含まれていませんので、気候変動と共に森林破壊にも歯止めがかからなければもっと早い段階での生育地の減少や絶滅というのも考えられます。またこの研究結果とは別に、タンザニア・モシ県での降水量が2000年代に入って著しく減少しているというデータもあります(モシ県気象局)。気候変動による影響は遠い未来の話ではなく、現在進行形の出来事です。私たちが毎日何気なく口にしているコーヒー1杯からでもその現実は見えてきます。

ちょっと息抜きにコーヒー、でもじっくり味わうとその本当の苦さがしみてくるかもしれません。

(出典)

・ナショナルジオグラフィックニュース

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20121109003

・高収益農業研究 アフリカのコーヒー産業と日本の貿易・援助

http://www.promarconsulting.com/site/wp-content/uploads/files/Coffee_Final.pdf

・TCB生産量統計

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