ここ数年、村の近くの森で以前より動物に会う機会が多くなった。これも長年村人たちが植林に取り組み、森を守ってきたことによる一つの変化といえるかも知れない。この2、3月に現地入りした時にも、植林地に行く途中数頭の小型のレイヨウ類(写真)に遭遇した。毎年タンザニアに入り動物写真を撮り続けている理事の金子氏が真っ先に発見したが、これまで見たことのない種類であった。距離にして30mほどあり、小型なこともあってその場では何の種類か分からなかったが、後日金子理事から、コモンダイカー(Common Duiker)ではないかと連絡があった。
植林地でやはり小型のレイヨウ類であるディクディクに出会ったこともある。植えたばかりの苗木をムシャムシャ食べていたが・・・。喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか微妙であるが、村人たちは「森に動物が戻ってくるのは、悪いことではない」と穏やかに言っていた。2年前の植林ワークキャンプの時には、ある村人が「昨日ヒョウを見た」というので、「どこで!?」と聞き返すと、「いま植林やってる所で」と言う。おいおい・・・。実際にヒョウだったのかどうかは未だに半信半疑であるが、森の動物が戻ってくることは、やはり悪いことではないだろう。
もっともそんな村人たちも、畑に出没するサル(Blue Monkey)には手を焼いているようで、ときどき畑の中にカカシが立っているのを見かける。やはり世界中どこに行っても、人間の考えることは同じなんだなぁと思ってしまう。このサルたちには森の中でも出くわすことも多い。よく群れをなして木から木へと移動しているのを見かける。ある時は森の中で2mくらいの至近距離でばったりと出くわし、こちらも驚いたが向こうはもっと驚いたらしく、完全に固まってしまって動けなくなった様子であった。5秒くらい見つめ合っただろうか、脱兎のごとく逃げていった。
そのほかに比較的村でよく見かける動物は、小動物であるが、森林性のアカリス(Red Forest Squirrel)や、ハリネズミ (Hedgehog)がいる。鳥ではギンガオサイチョウ(Silvery-cheeked Hornbill)が、“Hornbill”の名の如く、嘴の上の角状に突き出た突起が異様で、大きい上にバッサバッサとこれまた大きな音を立てて飛ぶのですぐに分かる。森では目を奪うほど美しいオウカンエボシドリ(Tauraco Hartlaubi)を見ることが出来る。エナメルグリーンに輝く姿だけでも美しいが、飛んだ時だけ、翼の裏側の深紅の羽が見え、目に焼き付くほどの鮮やかさ。花の季節にはタイヨウチョウたちもたくさんやってくる。そんな生態系の頂点にたっているのは、森に棲むレイヨウやサル、小動物たちを捕食し、人間(子ども)さえ襲ったという記録のある猛禽類、カンムリクマタカ(Crowned Hawkeagle)だろうか。
とはいうものの、実際には今では見られなくなってしまった動物の方が、圧倒的に多いのが現実である。クロサイ(Black Rhinoceros)はキリマンジャロ山では絶滅してしまったし、アンテロープのアボットダイカー(Abbott’s duiker)は絶滅の危機にある。かつて(といっても、ほんの5、60年ほど前のことであるが)、たくさんいたというゾウもヒョウも、今では見ることが出来ない。絶滅してしまったクロサイはもちろんのこと、こうした動物たちは、これから村人たちがどんなに木を植えても、もう戻ってきそうもない。今も森の中に残る、その昔、家や村を守るために張り巡らされていたゾウやヒョウよけの空堀や落とし穴だけが、かつてこうした動物たちが、当たり前のように村の近くに生息していたことを伝えるばかりである。
〔No.34 その他の内容〕
● キリマンジャロ山の森を巡る最新の取り組み状況
● 現地プログラム推進事業 活動報告: 村の自慢を探し求めて
● 植林活動: 各グループの育苗順調、大雨期植林も始まる
● 活動の自立支援: TEACA高地養蜂事業でハチミツ収穫実施など
● 生活改善: 土製改良カマド普及用のパンフレットが完成など
● そ の 他 : 子供たちのスタディツアー実施