雲間から現地調査時に姿を見せたキリマンジャロ山
最近、アフリカ大陸でもっとも樹高の高い木がキリマンジャロ山で発見されたというニュースが世界を駆け巡ったのをご存じでしょうか?(以下のリンクURL参照)。センダン科のEntandrophragma Excelsumという木ですが、樹高は81.5mで世界でも6番目に高い木だそうです。
そしてこの木が発見されたのが何と”エデンの森”の直下!高い木があることは以前から分かっていましたが、今回初めて正確に樹高が計測され、アフリカ大陸一であることが確認されたのです。木はムルスンガという川が刻む深い渓谷の中にあって、下流側からのアクセスが困難な場所にあります。辿り着くにはエデンの森を突っ切って行くしかありません。
ムルスンガ川が流れる渓谷。奥に写っているのが “エデンの森”
エデンの森はもともとキリマンジャロ山の天然林と人の暮らすエリアとの中間にあって、天然林を保護するための「バッファゾーン(緩衝帯)」としての役割を担ってきました。今回の発見は、地域住民が守り抜いたエデンの森が、まさに防波堤となってこの木を守ってきたことを図らずも証明することになったのです。
村人たちがこのニュースに大喜びしたのは言うまでもありません。「エデンの森を守ってきて良かった!」と口々に話してみんなで喜びを分かち合っていました。今回、副大統領府や世界遺産を管理するユネスコのタンザニア代表事務所とも話し合いをしてきましたが、エデンの森を知らない彼らも「あのアフリカ一背の高い木がある場所なんですが」というと、「えっあの木がある場所なの!?」と目を丸くして驚きます。
各村で育てられている苗木。ここはキリマンジャロ東南山麓の標高約1,700mに
あるマヌ小学校。先生も生徒たちも本当に熱心に植林に取り組んでいます。
植林現場であるかつて丸裸だった尾根には、立派な森が甦りつつあります。
ところが、「そんな貴重な木がある場所は国立公園とすべきだ」という議論がいま出てきています。世界に名の知れた生態学者がそう言えば誰も反対しません。一体誰が森を守ってきたのか、なぜその木が今もそこにあるのか、どのような管理手法がもっとも持続的で効果的なのか、そうした議論は一切されることがなく、ただ国立公園にせよと言います。これはもう自然保護という名の暴力でしかありません。
「世界はオレ達のことなんか見ないのさ。アフリカ一の木なんて発見されない方が良かった」。またも自分たちを蚊帳の外に置いたまま進められるこのような議論を知るにつけ、喜びもつかの間、村人たちの間には失意と悲しみが広がっています。
木を見て森を見ず、森を見て人を見ず。こんな愚かなことをいつまで世界は繰り返すのでしょうか。人にとっても、森にとっても、動物にとっても、いつまでも”エデン”(楽園)であり続けて欲しい。そう願い、森を守ってきた村人たち。自然さえ守られればそれで良いというキリマンジャロ山を覆ういまの保護政策は、そうした住民たちの願いとはあまりにも遠くかけ離れたものです。