裸地尾根の様子
キリマンジャロ山では、村の上部に位置していた住民たちの「生活の森」(バッファゾーンフォレスト)への国立公園の拡大にともない、植林も国立公園より下の村落エリア内の裸地尾根に移っています。
こうした裸地尾根でも従来と同様「森林回復」を目的とした植林に取り組んでいますが、その一方で裸地尾根植林では森林の回復だけでなく、それまで生活の森で得られていた様々な生活資源や住民のニーズを充足できることが求められています。
その意味で、キリマンジャロ山での森林回復や環境保全を目的とした植林は、住民の求める植林とは必ずしも一致しなくなってきているといえます。とくにかつての生活の森では、林間に存在する草地が家畜飼料の重要な供給源となっていましたが、村落エリアの裸地尾根(森林を失った後、イネ科雑草が占有)に森を回復することは、生活の森から押し出された草地の確保という住民ニーズと鋭く対立するようになっています。
さらに森林の回復にあたっても、裸地尾根は土壌流出のため岩だらけとなっており、苗木を活着させること自体が難しいという問題もあります。加えて長く生活の森で植林に取り組んできた住民たちは、自然保護の名のもとに自分たちが守ってきた森から追い出されることになり、「もう植林なんかやってられない」という気持ちになっています。

植林地の様子
とはいえ、生活の森に代わる「森」がなければ、これまでのような生活を維持することは難しくなっています。したがって、村落エリアの裸地尾根とその存在を今後どのようなものと位置付けていくか、その将来像を多くの山麓の住民たちが共有できるようになることが大変重要になってきます。今後、キリマンジャロ山における環境保全と住民生活の安定の両立は、裸地尾根に対するこうしたビジョンなしには成り立ち得ないでしょう。
それでは、裸地尾根に期待される役割や機能とは、いったいどのようなものでしょうか。以下にまとめてみます。
(1) これまで様々な生活資源の供給を担ってきた「生活の森」の代替機能を果たすこと(森林の再生、回復)
(2) 再生された森が、とくに飼料となる草と競合しないこと、生長を妨げないこと(草地の確保)
(3) 森林の再生および回復が、より積極的に山麓住民の生活向上に寄与すること(環境保全重視から、地域経済・住民生活とのバランス重視の植林へ)
これらを実現するためには、様々な住民ニーズに応え、草地と競合せず、地域や住民生活にプラスアルファのメリットをもたらすことのできる樹種選択が要となってきます。さらに荒地に耐える樹種でなければなりません。書いてしまうのは簡単なのですが、これらを満遍なく満たす樹種というのは、そう簡単にあるものではありません。「これだ」と確信を持てる樹種はないというのが正直なところです。
そこでいま私たちが取り組んでいるのは、現地の人々と頭を悩ませつつ選抜した十数種類の樹種の試験植林です。とにかく植えてみないことには活着してくれるかどうかさえ分かりません。そのうえで、地域経済や住民生活にプラスアルファをもたらす森林の回復、再生として目指しているのが「みつばちの森づくり」です。選択した樹種のうち多くは、良い蜜を出す蜜源樹で構成されています。
今年の大雨期植林では、あらたに確保された展示林造成のための土地と裸地尾根で、この試験植林に本格的に着手しました。いつもなら植林にはクワを使いますが、岩を掘り起こし砕きながらの植林で、ツルハシを使っての作業は30年弱の植林の取り組みでも初めてのことでした。本来なら6月には完了する植林なのですが、最近のキリマンジャロ山での気象変化から植林用の苗木の生育が悪く、樹種により生長を待たなければならず、植林がほぼ完了できたのは9月とこれも前代未聞のことでした。苗木の生長が悪かった背景には現地で長引いた雨と寒さが大きな原因としてありますが、長雨のおかげで大乾期に入っているはずの9月になっても植林が続行できたというのは何とも皮肉というほかありません。これまでのところ植えた苗木の活着は悪くなく、安堵の胸をなでおろしていますが、一方で従来の植林地と異なりシロアリによる食害も目立ち、これにどう対処していくかが新たな課題となっています。
今後の裸地尾根の在り方については山麓40村を集めた会議を開き、その中で「みつばちの森」は参加したすべての村が魅力的な構想としてぜひ我が村でも実行したいとして賛同を表明してくれました。昨今のキリマンジャロ山では植林に後ろ向きな空気が支配的になりつつあったなか、これは予想を超える嬉しい反応と力強い手ごたえでした。しかしそれば、どの村も「生活の森」を奪われた結果困窮しきっている状況の裏返しなのだといえるでしょう。
残念ながら「みつばちの森」は「夢の森」ではありません。「生活の森」が果たしていたすべての役割や機能を担うことはできません。たとえば、「生活の森」には“バッファゾーン”の森として、原生林と人の生活圏との間のまさに緩衝帯としての大切な機能がありました。日本ではクマが人々の生活圏に入ってきて問題になっていますが、キリマンジャロ山でも同じことが起きています。それは、人と自然との間を隔てていた里山の森などが失われたり、人の利用や手入れがされなくなったことが原因の一つとされています。村落エリアにある裸地尾根は、そうしたバッファーとしての機能を果たすことはできません。そのほかにも「生活の森」は、キリマンジャロ山に暮らすチャガ民族の様々な伝統や知恵、文化、歴史が息づき、脈々と営まれそれらが受け継がれてきた場でもありました。「みつばちの森」はそうした「生活の森」が持っていた、人々の無形の精神的財産を持ちえません。それでも、「生活の森」を可能な限り代替できる森の創出は、キリマンジャロ山の自然、人々の暮らしを考えた時に喫緊の課題だといえます。

「みつばちの森」試験植林地に植えられた苗木(Azadirachta Indica)
森の創出以前に苗木が確実に根付き、育ってくれるかもまだ約束はされていません。また、養蜂自体もまだ難題が山積しており、多くの村に拡大展開できる段階ではありません。しかし多くの村が、裸地尾根の未来の在り方として全体で「みつばちの森」づくりに取り組むことに価値を見出してくれています。これからも克服しなければならない課題は山積していますが、一つ一つ乗り越え、前進させていくつもりです。
「みつばちの森づくり」を応援してください!
タンザニア・ポレポレクラブは、キリマンジャロ山の40村と協力して、蜜源樹による「ミツバチの森」づくりを始めています。「みつばちの森」はキリマンジャロ山の裸地尾根に森を回復しつつ、養蜂によって村人たちが収入を得ていけるようにすることを目的としています。100円で1本の蜜源樹の苗木を植えることができ、1万円あれば改良養蜂箱を1箱設置することができます。
ぜひ「みつばちの森づくり」とキリマンジャロ山での養蜂活動へのご支援、ご協力をお願いいたします。
●ご寄付の方法
・インターネット寄付
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