ハーフマイル・ストリップの利用禁止命令出される

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海外活動森林保全
衛星画像によるキリマンジャロ山と森の様子

衛星画像によるキリマンジャロ山と森の様子

 

天然資源観光省大臣は7月13日、キリマンジャロ国立公園に取り込まれた旧バッファゾーンの森“ハーフマイル・フォレスト・ストリップ(HMFS)”での観光以外のすべての人為活動の即日禁止を命じました。

ここでとくに人為活動として言及されているのは、薪と家畜のための飼料草の採集です。HMFSは、キリマンジャロ山の森林に沿って暮らす地域住民にとって日本の里山と同じで、長い年月をかけて彼らの生活体系の中に組み込まれきた、重要な生活維持システムの一つです。その存在は彼らの生存に欠かせません。

HMFSは2005年、世界遺産キリマンジャロの自然価値を守るためとして、それまで山の森林限界より高い標高部分に設定されていた国立公園を、森林帯の最下部まで拡大する措置によりその内部に取り込まれました。

 

キリマンジャロ山における国立公園拡大の様子

キリマンジャロ山における国立公園拡大の様子

(1)~(3)に囲まれたドーナツ状のエリアがキリマンジャロ山の森林帯。その森林帯の下限内側(網掛部)がHMFS。
(1): かつての「国立公園」境界。森林限界より標高の高い位置に設定されていた。またこのエリアが世界遺産。
(2)~(3)の網掛部: ハーフマイル・フォレスト・ストリップ(HMFS)
2005年、赤矢印のように国立公園が拡大され、HMFSはすべて国立公園に取り込まれた。

 

国立公園法は(観光客を除く)何人の利用も許しておらず、地域住民が日々の煮炊きに使う薪や家畜を養うための飼料、薬草の採取、森(HMFS)から流れ下る伝統水路や水源の維持管理など、一切許さないものです。

それだけではありません。キリマンジャロ山に暮らすチャガ民族の優れた伝統農法である“キハンバ(kihamba)”は、(1)多様な樹木と作物を組み合わせたアグロフォレストリー + (2)伝統水路 + (3)飼っている家畜の糞の投入 という複合システムによって成り立ってきました。これにより彼らは通年での作物栽培を可能としつつ、限られた土地でも地力を維持し、生産性を上げられる持続的農業を可能としてきました。ちなみに日本でもお馴染みのキリマンジャロコーヒーも、このキハンバで多くの村人たちによって栽培されています。HMFSを取り上げることは、キハンバから伝統水路と家畜による肥料確保を不可能とすることであり、キハンバシステムの崩壊、ひいては地域住民の生活を崩壊させ、生存の危機へと追い込むことを意味します。

それゆえキリマンジャロ州評議会(RCC)とキリマンジャロ国立公園公社は、国立公園でありながら、そこでは許されない薪と飼料草の採集について女性のみ、週2回、4時間のみという限定条件つきながら、HMFSの利用を許可しました(2014年)。しかし当然これは国立公園法を犯すものであり、当会も国立公園の管理主体自身が遵守することのできない国立公園化という手法による森林(HMFS)管理の矛盾を指摘してきました。

今回の禁止命令により地域住民はどうなってしまうのでしょうか。彼らに、日々の煮炊きを放棄し、家畜を餓死させる選択肢はないでしょう。禁止されようとも森に入り続ける以外に生きる術はないからです。これまでに起きたことを考えれば、そのとき国立公園管理のために配置された国立公園公社の武装ワーデンとの間で何が起きるか、いまから恐ろしくてなりません。

世界遺産のために地域住民が犠牲にされて良いはずはありません。世界遺産条約を定めるユネスコは、2007年に国連総会で採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言(United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples (UNDRIP))」を遵守する義務を負っています。それゆえ同宣言を受け、2009年に世界遺産条約は「先住民族、及び、地域のコミュニティが遺産保護の状態に関する政策決定、監視、評価に関与することを奨励」と定めました。それにも関わらず、少なくとも世界遺産キリマンジャロにおいてその遵守が図られているとは到底いえません。起きていることは政策決定への関与どころか排除なのです。

キリマンジャロ山の自然、森林を守るという目的と意思において、国際機関にも、タンザニア政府も、地域住民にも齟齬はありません。問題なのはその達成のためには地域住民の犠牲を厭わないという政策です。以前にも触れましたが、そして当会が何回も主張しているように、目的達成のためにはもっとも合理的な方法が政策選択されるべきです。キリマンジャロ山においてそれはHMFSを国立公園に取り込むという、失敗を積み重ねた旧態依然たる「要塞型自然保護」政策ではなく、地域住民主導による森林保全・管理の実現を図ることです。ユネスコも、タンザニア政府も、国立公園公社も、その実現をこそ目指し、そのための努力をすべきです。

法による強制、武器と暴力、そして恐怖によって守られる世界遺産を、私たちは人類の宝と誇れるでしょうか。

参考:
キリマンジャロ国立公園公社の武装ワーデンによって村人が殺害(2019年12月3日)されたときのニュース報道

https://www.youtube.com/watch?v=GDZ3uxw4Mx4

キリマンジャロ山に暮らす住民たちを守るために

キャッチ画像

キリマンジャロ山で村人たちの生活を支えてきた里山の森 “ハーフマイル・フォレスト・ストリップ”。国立公園に取り込まれたこの森を取り戻し、地域住民主体による森林の保全、管理を実現するための当会の取り組みをぜひご支援ください!

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