国立公園が返ってくる!?(’17/2-①)

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海外活動森林保全

2月に現地から驚きの情報が入ってきました。それは国立公園を管理している国の組織(キリマンジャロ国立公園公社。以後公社と表記)から、「住民が生活を維持できるよう、国立公園に取り込まれた森の一部を住民が使えるようにする」というものです。

これは本当に驚きの情報で、これまでの働きかけによってついに国が森の返還に向けて動き始めたのであれば、大きな前進ということができます。しかし残念ながら事実は異なります。なぜなら、彼らは「森の一部」に付け加えてこう言ったのです。「ただしそれは村の境界から10.5mだけ。そこからさらに10.5mは刈り払い(森林を伐採)し、そこからの先への侵入は認めない」。

前回「なぜ国立公園が問題に?(’17/01-③)」でご報告したように、もともと山に暮らす村人たちが利用していた生活の森(Half Mile Forest Strip)の幅は平均してハーフマイル、つまり約800mありました。それが10.5mでも生活を維持できるとした根拠は一体何なのでしょうか?

 

図1: Newmark, William D., et al. (1991) The Conservation of Mount Kilimanjaro. IUCN, Tropical ForestProgramme; WWFをもとにタンザニア・ポレポレクラブが加工作成

図1: Newmark, William D., et al. (1991) The Conservation of Mount Kilimanjaro. IUCN, Tropical ForestProgramme; WWFをもとにタンザニア・ポレポレクラブが加工作成

 

さらに国立公園の領域を規定している国立公園法を改定(国会の決議が必要)することもなく、その一部を割譲する権限を公園を管理する一組織がなぜ持っているのでしょうか?

そして境界を明確にするためにさらに10.5m幅を刈り払うとしていますが、何人の侵入も認めず、まして自然改変行為であるとして住民による自然資源の利用や環境保全活動を禁じた国立公園の中で、延長数十キロメートルにもわたって森を刈り払うことがなぜ許されるのでしょうか?しかもキリマンジャロ山は世界遺産です。

 

今から20年以上前の1996年、村人たちがキリマンジャロ山の裸地化した斜面に森を 蘇らせようと、植林に取り組んでいる時の写真。同じ場所のその後の様子が下の写真

今から20年以上前の1996年、村人たちがキリマンジャロ山の裸地化した斜面に森を
蘇らせようと、植林に取り組んでいる時の写真。同じ場所のその後の様子が下の写真

上の写真の現在の様子。ここは村の境界に接しており、公社が10.5m幅での刈り払いを 行う対象地。ここに写っている木の多くが切り払われることになり、いくつかの村では すでに伐採が開始されています。しかもここは国立公園の中

上の写真の現在の様子。ここは村の境界に接しており、公社が10.5m幅での
刈り払いを行う対象地。ここに写っている木の多くが切り払われることになり、
幾つかの村では
既に伐採が開始されています。しかもここは国立公園の中。

 

当然この通達に村人たちは怒りを露わにしています。国の組織が平然と法律を踏みにじり、国立公園の拡大と同様、その決定をまたしても一方的に自分たちに押しつけてきたからです。

キリマンジャロ山でいま起きている問題には、それを引き起こした様々な要因があります。その一つに、住民が長く利用してきたエリアをトップダウンで一方的に取り上げたことがあります。こうした場合、普通は公聴会を開催し、地域住民に事前に十分な説明を行い、彼らの意見を聞き、理解と合意を得ることが必須です。しかしキリマンジャロ山の住民は、その十分な説明を受けないうちに森を取り上げられました。大問題となるのは必然だったといえます。

こうした住民無視のトップダウンのやり方がキリマンジャロ山での問題を引き起こしてきたという認識が、問題発生からすでに10年以上経つ現在にいたっても、国立公園を管理する公社には欠如しています。そして現場で起きている問題が正しく中央政府や国際機関に伝わるか/伝えられているかを検証する仕組みが存在しません。このような管轄組織の能力欠如と制度欠陥が、事態の改善を10年以上も阻んできています。

結局森は返されるどころか。国立公園公社は自然と人(地域住民)を分断するという従来の方針をより強硬な手段で示してきたというのが今回の実相です。こうした中、40村の地域連合はあらたにタンザニアの環境政策を統括している副大統領府にアプローチし、HMFSの返還とそこでの地域主体による森林管理の必要性について協議を開始しました。また、県議会議員に対してもあらためてHMFSの返還決議を採択するよう働きかけています。この両者の動きが今後の問題解決に向けた大きな鍵を握ってくるものと考えています。

 

かつての政府の森林プランテーションの跡地。毎年雨季になると、村人たちは森を蘇らせようと総出で植林に取り組んできました。

毎年雨季になると、村人たちは森を蘇らせようと総出で植林に取り組んできました

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