世界遺産-住民を取り囲む現実 

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朝焼けのキリマンジャロ山

朝焼けのキリマンジャロ

 

今日もここキリマンジャロ山で朝からミーティングをしています。キリマンジャロ山では住民たちの生活の森を国立公園に取り込んだ国/それを管理する組織(KINAPA)と、森を取り戻そうとする地域住民たちとの間で緊張した状態が続いています。

そのKINAPAが「村人に環境教育を行う」とのお触れで8月11日から突然森林に沿った3県約60村を回り始めました。当会のカウンターパートであるTEACAとKIHACONEに対しても、その環境教育を手伝うようにということでほぼ50日間、連日にわたるこの巡回レクチャーに同行を求められています。

しかし蓋を開けてみるとTEACAやKIHACONEにはほとんど発言機会が与えられず、また村人たちも同様です。KINAPAは環境教育とは別次元の、村に対するプロジェクト支援の提案などをしていますが、そこには村人たちをプロジェクトで懐柔し、森を取り戻すことを悲願としている彼らをだまらせてしまおうという考えが透けて見えます。

少数の住人しか裨益できないプロジェクトと引き替えに、大多数の村人たちは生活の森を失うことになります。共に話し合い、お互いにとって納得のいくより良い着地点を見出すということをせず、トップダウンで一方的に自分たちの考えを押しつけるという姿勢がなぜ改まらないのか、10年以上にもわたるキリマンジャロ山でのこの国立公園の問題をかかえていながら、国立公園を管理する側には、その考えや姿勢を変えようとの意思が見られません。

森を取り戻し、そこでの住民主体による森林管理の実現を目指して、キリマンジャロ山麓モシ県の森林に沿うすべての村(40村)が団結して立ち上げた地域代表組織KIHACONEは、こうした国立公園側の飴で地域や人を釣るような態度に対し、あくまで森の返還を求めていく方針を固めています。今朝のミーティングもそのためのものでした。

そしてとくにキリマンジャロ山のような途上国にある「世界遺産」の現場では、そこに暮らす人々の生活よりも人類の宝としての「世界遺産」を守ることの方が、実態としても実質としても優先されているという現実が、世界に伝わることはないということを身をもって感じています。彼らの声は世界遺産を管理する当事国政府を通じてのみ公式に世界に発信される仕組みになっているからです。世界遺産の管理が当事国政府に任されている以上、責任を負う政府は自らの問題を明らかにすることをしません。住民達の声はそこで潰され、良い情報しか世界に出ていきません。

当会はこうした状況に風穴を開け、自然と生活の双方を守っていくことのできる森林管理の仕組みを作り上げていこうとしています。すぐにその道が開けるものではありませんが、着実にそのためのレールを敷き、少しずつ成果となって現れてきています。これまでかたくなに国立公園内での地域住民による植林を拒否してきたKINAPAが、今年からその考えを放棄するに至ったのもその成果の一つといえます。住民を無視しては守るべき森も守れないということを理解したからです。

まだまだ道半ばですが、当会はこれからもキリマンジャロ山での新たな森林保全・管理の仕組み(=地域住民主体)を実現すべく取り組みを進めていきます。そしてその結果が、世界の多くの国々、なかでも「世界遺産」となったがゆえに同様の苦しみを抱えている地域に対し、具体的解決策のモデルとなり、指針を示し得るものとなっていくことを願っています。

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