バツ印が書かれた家
タンザニアの幹線道路を走っていると、よく家の壁などに大きく赤ペンキで”×”と書かれているのをみかけます(写真)。あの”×”マークは一体何なのだろうと思われる方も結構おられるのではないかと思います。実際私もよく質問をされます。
タンザニアでは幹線道路の場合、左右それぞれ道路「外」の一定幅まではエプロンと呼ばれ、その道路の一部とみなされています。たとえば国道の場合、センターラインから左右にそれぞれ30メートルまでが道路及びその一部であると法律で定められています。
件の”×”マークは、この道路の一部であるエプロン部分に引っかかってしまった家などに書かれているものなのです。もちろん「退去要」という意味です。ところが不思議なのは、この”×”マークが書かれているにも関わらず、何年たっても退去しないことです。
これには理由があって、現在の30メートルという幅は、もともとは22.5メートルだったのです。ところがこれが2007年の改正道路法によって30メートルまで拡大されたのですが、改正法の施行にあたっての国民への周知不足や立ち退きへの補償が曖昧だったため、知らずに家を建ててしまったり、あるいは補償もないまま立ち退きに応じられるはずもなく、そのまま居座っているのです。
こうした場合、道路を管理するタンザニア道路公社(TANROADS)が強制撤去に動くこともあり、当然住民たちとぶつかることになります。したがってタンザニアではこの”×”マークは”alama yaX”(エックスマーク)と呼ばれ、結構悪名を馳せています。
日本でも政府から道路を拡張するから立ち退けなどと言われたら、たとえそれが限られたエリアだとしても大問題となることは間違いありません。それをタンザニア全土でやったわけですから、問題となるのもある意味当然といえば当然と言えます。ある地域では住民の抗議の前に政治家が、「Xを書かれても長く放置されている場合は、そのままで良い」といった、法律はどこへやらの解釈を持ち出すケースもあり、その一方で今後建設が予定されている大規格四車線道路などでは30メートルですら足りないといった議論もあり、はてさてこれからどうなっていくことやらと思っています。
このように書いていると、住民の森林資源利用を禁じ、彼らを森から締め出すために国立公園法を改正してそのエリアを拡大し、しかも何らの補償もしないキリマンジャロ山の状況と何やら非常に良く似ているような気がしてきました。いや、その前に、国民的理解が得られないうちに法律の解釈を変えてしまうどこかの国とも似ているような。。。