事務局日誌: 村を覆う高齢化の波、失ってはならない国の宝

  1. TOP
  2. 投稿
  3. 事務局日誌: 村を覆う高齢化の波、失ってはならない国の宝
その他

キリマンジャロ山麓コリニ村のキランガ女性グループのママさん達

キリマンジャロ山麓コリニ村のキランガ女性グループのママさん達

 

キリマンジャロ山の村に入るたびに思うことですが、10代後半から30代くらいの青年層が本当に少ないということです。その一番の原因は職がないということに尽きます。かつてコーヒー産業華やかなりし頃であればコーヒー農家を継ごうという若者もいたのでしょうが、ひと頃に比べ多少価格は上がったとは言うものの、差別化などの戦略を持たずにただ栽培を続けることでは、もはやコーヒー栽培に生活の安定を見いだすことは難しいのが現実です。他にもキリマンジャロ山で暮らすチャガ民族の伝統的な土地の均等分割相続制など、究極まで土地の細分化が進んでしまった現在、そもそも限られた農地では生活を支えきれないといった問題もあります。ですから若者達は村に将来を見いだせず、みんな麓の町や或いはさらに遠方の町や都会へと出て行ってしまいます。こうした状況は日本の農山村と変わりがありません。

当会がキリマンジャロ山で協力している様々なグループにも、この若者不在の影響は確実に現れています。それは構成メンバーの高齢化です。現地での生活は決して楽なものではありませんから、タンザニアではほとんど全土的に相互扶助的なグループが存在しているといえます。お互いが助け合い、知恵や力を出し合って生活や地域社会を回しています。ママたちがお互いの日々の不満を気兼ねなく話し合えるガス抜き的井戸端会議みたいな集まりもありますが、それとて社会の中でとても大切な役割を果たしているというのが実感です。

ただ、グループの高齢化が進むとやはり活力が失われてくるというのも別の実感としてあります。都市部への青年層の流入、定住は、村落部での世代間の分断、ひいては相互扶助機能の弱体化へと繋がっています。今はまだ村に残る壮年層の世代が高齢層のケアに回り、グループ内での相互扶助機能を今度は地域がバックアップするといった形態への移行が見られますが、その壮年層が高齢層になった時、いったいどうなってしまうのだろうと懸念しています。若者が両親を支えられる力は日本とは比べるべくもなく、都会に出て行った自分の子ども達をあてに出来ないだけに、本当に厳しい状況だと言えます。だからこそチャガ民族は、末子(男子)に均等配分後の親の土地分と彼の分の土地を合わせて継がせ、家に残らせる(=親の面倒も見させる)伝統だったのですが、いまは生活を支えていけるだけのその土地がありません。

国土の殆どが降雨の少ない半乾燥気候にあるタンザニアにあって、雨に恵まれたキリマンジャロ山でこうした地域の衰退を止められないのは何ともやるせない思いがします。そのためにも若者が将来を見いだせる、すなわち「食べていける」環境を創り出さなければいけないでしょう。日本では地域興し、最近では地方創生などとも言われていますが、キリマンジャロ山についていえば、たんに一つの地域という視点だけでなく、タンザニアにあって希有な恵まれた気象条件にある「国の宝」として、国家戦略の視点からこの地域を位置づけ導いていく必要があるでしょう。キリマンジャロ山は世界遺産としても国の宝ではありますが、若者の流出を止められずにもう一つの大切な国の宝を失ってはならないと感じています。

一覧へ