「自慢の森」アンケート調査こぼれ話

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海外活動その他

当会では、これまで一生懸命森を守ってきたキリマンジャロ山の村人たちがこれからも息長く自分たちの森を守る取り組みを続けていけるように、彼らの森への思いを形(視覚化)する活動に取り組んでいます(Rafikiプロジェクト)。

この取り組みの一環として、キリマンジャロ山の東南山麓、標高約1,300m~1,800mにある3つの村、テマ村、キディア村、モヲ村で、村の人たちに彼らにとって大切な木、後世に伝えていきたい木のアンケート調査を実施しました。そこで得られた樹木の回答数は総数で1,858件にもなりました。

現在当会ではそのデータの精査、分析に取り組んでいますが、これがなかなか大変な作業になっています。なぜかというと、たとえば回答にはキリマンジャロ山に暮らしている村人たち(チャガ民族)の母語であるチャガ語での回答もあれば、広く東アフリカで話されている共通言語スワヒリ語での回答あり、たまに英語もあり。それくらいはまだ大したことはありませんが、スペルはめちゃくちゃ、それ以前に判読自体が不可能なもの、回答欄をまったく間違えて書いてきている者など、暗号や謎を一つ一つひもとき、解明していくような根気のいる作業になっています。

なかでも最大の難敵は、チャガ語のバラエティの広さ(地域間相違の大きさ)にあるといえます。隣尾根同士でもう違うチャガ語での単語や言い方になったりします。日本の方言のように東京と大阪くらい離れていればその地域の方言があるのも頷けるのですが、キリマンジャロ山という同じ山の中で、しかも尾根が違ったらもう違うのですから参ります。しかも標準チャガ語というものが存在しないため、すべての言い方が「正統で美しい標準チャガ語」ということになります。これは日本語の国語辞典で言えば、すべての方言を網羅しない限り、それは辞書として機能しないということを意味します。

では具体的にどんなものか、今回のアンケートから一つの樹木を例に取って見てみましょう。 テマ村で”Ihahana”と呼ばれる木があります(学名:Agauria salicifolia、ツツジ科、スワヒリ語名:Myunguvo)。これが別の尾根に行くと、Mhahana/Muona/Mwaana/Mwadai/Mwana/Mwane/Ngwaana/Ngwoana/Yaana等々になります。「これはもしかたしたら同じ木のことを言っているのでは?」と推測がきくものもありますが、もはや同じものとは想像もつかないようなものまであります。そこで資料を総動員して樹木を同定していくという作業が必要になります。しかもテマ村の”Ihahana”(単数形)は複数形では”Mahahana”となり、村人からの回答はその単数形と複数形までもが混在しています。これが上記のすべての言い方で発生するため、同定作業はさらに困難なものとなります。

もう一例、今度は動物の名称で見てみましょう。ディクディク(英語名Dik-dik)という小型のアンテロープがキリマンジャロ山の森にはたくさん棲んでいます。スワヒリ語ではDikidikiあるいはDikudikuといいますが、これはチャガ語では多くの場合Digidigiといいます。ところが村人たちの答えはそれ以外にDick dick/Digi_digi/Digi disi/Dighi disi/Digidisi/Digh dis/Digidido/Digli disi/Dingidingi/Digodigi/Pigli disiといった具合です。明らかにスペルミスと思われるものも中にはあるのですが、はてさてどうしたものか、苦悶の日々は続きます。

しかし、当会ではこれまでこうしたデータを4年をかけて丹念に調査し蓄積してきました。いまようやくその集大成とも言える段階に辿り着いており、まだ現地での最終チェックを受ける必要がありますが、そこで抽出されたデータはすべて村人たちが「これが私たちの森の自慢だ、見てくれ!」と胸を張って言えるものになります。もちろん、最終的にまとめたデータや結果はすべて村人たちに還元し、彼らに役立ててもらいます。

「私たちの自慢の森」。彼らが長く守ってきた森をますます自慢に、誇りに思ってもらえたら。彼ら、彼女たちのそんな森に対する気持ちや思いを側面から支えていくお手伝い。それが当会の大切な、そして最も重要な役割と言えるかも知れません。そう思えば、苦悶の日々もなんのその・・・でしょうか!?

 

(写真)「森の自慢」アンケートの実物

(写真)「森の自慢」アンケートの実物 

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