この2月から3月にかけて、5年ぶりに植林ワークキャンプが再開されました。開催地は従来のテマ村から離れ、今回が初めてとなるキリマンジャロ東南山麓の標高約1,800mにあるロレ・マレラ村。
当初の予定では、植林は村の上部に広がるかつての緩衝帯(バッファゾーン)の森、現地でハーフマイル・フォレストストリップ(以下HMFSと表記)と呼ばれるエリアで実施することにしていました。ところが今回、このHMFSでの植林が、政府(具体的にはキリマンジャロ国立公園公社、以下KINAPAと表記)によって阻止される事態となりました。
このHMFSは、住民による天然資源の利用と森林保護を両立させるための、まさしく「緩衝帯」としての重要な機能を果たしていた森であり、それゆえ地域住民たちにとっては、彼らの生活を維持するために必要欠くべかざる森でした。また同村のHMFSでは2000年代半ばまで、政府(天然資源観光省)による天然資源管理プログラム(Management of Natural Resources Programme)が実施されており、HMFSは村人たちに個別に分割され、各々による利用と植林が奨励されていました。
ところがタンザニア政府は2005年、森林保護の名のもとにこのHMFSを国立公園に編入し、住民利用の一切の排除に乗り出しました。この措置の後も、TEACAは天然資源観光省からHMFS内での植林許可を得て、ロレ・マレラ村を含む各地域と協力し、同エリアで植林を続けてきました。この植林には、州知事、県知事も参加してきました。
この植林が、今回KINAPAによって阻止されることになったのです。そしてこれはワークキャンプのみならず、旧HMFSにおける植林の全てが対象となるものです。KINAPAは「何人たりとも入ってはならず、何事もしてはならない」という国立公園法を盾に、断固阻止の姿勢を貫徹していますが、ではKINAPAを管轄する天然資源観光省の出した植林許可は何なのかということになります。またそもそも、HMFSの森は、それへの管理強化という手法(国立公園への編入と住民排除はその最たる姿)によっては守れなかったのが過去の歴史であり、それを守れたのは、今回排除された地域自身にその管理が任されていた時代でした。したがって私たちは地域の力をこそ、キリマンジャロ山の、そしてHMFSの森林保全・管理の仕組みの中で活かされるべきであると考え、その実現を目指した取り組みを展開しています。今回の植林ワークキャンプもその一環としての位置づけでした。
HMFSでの植林さえ認めないとする今回のKINAPAの態度は、地域の村々の強い反発を生むことになりました。それは、自然を守るためには(私たちは守れないと考えていますが)そこに長く暮らす地域住民の犠牲を厭わないとする政府の姿勢への反発だといえます。
国立公園が住民の生活の森にまで拡大された背景には、キリマンジャロ山が世界遺産となり、その森の保護への世界的圧力があった事実があります。その意味で実は私たちこそ、このキリマンジャロ山に暮らす人々にもたらされた厄難を取り払い、人と自然の双方に目を向けた、本来あるべき森林管理の実現へと向かわせる力があると考えています。
キリマンジャロ山で起きているこの現実を少しでも多くの方に伝え、知っていただき、現実を変える声の力に繋げていきたいと思っています。
KINAPAによる植林の阻止を報じる現地紙