日本が、そして世界が北朝鮮の核実験問題で揺れているいま、このタイトルに心穏やかならざるものを感じてしまう方は多いだろう。そして「なぜタンザニアで!?」と思われることだろう。
ちょっと古いが、9月24日付のタンザニアの現地紙「Sunday News」に、そのタイトルもズバリ“Time to go Nuclear”(「いまこそ核へ(踏み出す時期)」)との記事が掲載されたのである。私もこのタイトルを目にした時には仰天し、自分の目を疑った。
記事を読み進むうち、ここでの“核”とは、核は核でも「原発」のことであることが分かった。しかもそれは政府の公式見解というものではなく、新聞記者の署名記事に過ぎないものであった(もっとも新聞社として世に問うて然るべきとの判断が為されなければ、記事として人の目に触れることもないのだから、現在のタンザニアにおいてそれなりの社会性をもったテーマと言えなくもない)。
冒頭にも触れたが、世界が北朝鮮の核問題で神経をとがらせているこの時期に、こんなセンセーショナルなタイトルで原発の推進を提起しなければならない背景はもちろんある。すでにピンときている方もおられると思うが、タンザニアは昨年、今年と雨量不足に起因する(といわれる)発電用ダムの枯渇と、政府の対応のまずさもあり、全土的な計画停電に追い込まれている。
実質的な首都ダルエスサラームでは週7日(!)、昼間を含む一日12時間の停電。工場の稼働率は落ち、タンザニアの経済に打撃を与えているばかりか、病院が停電すれば手術もできず、国民の生命にすら関わる事態である。
タンザニア政府は必死で石炭火力発電へのシフトと能力整備、それによる危機緩和を目指しているが、いまのところ計画停電の実施は強化されるばかりで、事態の好転には結びついていない。さらに記者は、石炭火力発電に傾斜した場合、二酸化炭素や窒素酸化物、亜硫酸ガスなどの化学物質の排出による、自国及び国境をまたいだ環境、生態系への悪影響を懸念している。また将来に渡ってタンザニアで産出可能な石炭の埋蔵量(記事では100年分と推定している)に対する懸念も表明している。
このほか、原子力発電の長期的な安定性(天候や原油価格に左右されない)や、コスト効率の良さ(ランニングコストが低い)などをもって、原発推進を世に投げかける根拠としている。
ただ記者もイラン、北朝鮮に発する核の問題に、神経をとがらせている世界の国々の顔色が気になったようで、いらぬ勘ぐりを拭いでもするかのように、記事の最後を以下のように結んでいる。
「核エネルギーの安全で平和的な利用について、異論を唱えるタンザニア人はいないと私は信じる。ウガンダとの戦争を経験し、いまや戦争をしたがるタンザニア人がいるとは決して思わない。私たちの国は近隣国とも友好的な関係にあり、侵略戦争に備えて核武装する必要もない。少なくとも近い将来においては」。
最後の一言がちょっと気になるが・・・。