この6月に調査でタンザニア入りした際、現地の小学校の先生方から、来年度からタンザニアの小学校では、教科書の選定及び採用が、各小学校の裁量に任されることになったと伺った。
まだしっかりと調べたわけではないのでいささか確実性に欠けるのだが、驚いたことに、生徒全員に教科書が配られると話す先生もいる(数校の小学校の先生方に伺った範囲では、生徒全員~3人に1冊までと、この辺はちょっとマチマチ)。
現地では、教科書は5人に1冊などということもザラなので、たとえ3人に1冊であったとしても、それが確実に実行されるとするなら、まさに革新的なことといえる。ましてや生徒1人1人が教科書を手に出来るとしたら・・・。「そんな金が政府にあるわけない」というのが、先生方の意見ではあるのだが。こうした見方が、生徒が手に出来る教科書の数(予測)の違いとなって表れているのだろう。
しかし、教科書の各校裁量による選定、採用は確実なようである。これまで度重なるシラバス変更に振り回され、挙げ句の果てに「以前の教科書の方が良かった」などと先生をして言わしめるような状況は、どうやら終止符が打たれそうだ。上からの押しつけでない「本当に優秀な教科書(※)を、自分たちで選んで使える」(※もちろん、政府の定める一定の基準を満たしている必要がある)、「シラバス変更による現場の混乱を、これからはもう避けることが出来る」。先生方の顔には、そんな安堵の色が伺えた。
1990年にタイのジョムティエンで開催された「万人のための世界教育会議」において確認されたイニシアティブ“万人のための教育(Education for All)”、そして2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム開発目標 (MDGs:Millennium Development Goals)」においても、8つある重要な開発目標の中の一つとして「教育」は位置づけられている。途上国への教育支援は、いまや世界的な潮流となっている。教科書の充実化(その予算措置も含め)や採用の自由裁量化などは、こうした流れの一環として、実施に移されようとしていると感ずる。もとを辿れば、タンザニア、ケニアで実施された初等教育の無料化(制服代、学校の建設・増改築費などは基本的に保護者負担)や、教師の質向上を目指した資格の見直しなども、この潮流の中にあるものだろう。
こうした流れは、基本的に歓迎すべきものなのかも知れない。しかし一方で現場を見ていると、“それ以前の問題なのでは?”と言いたくなるような現実も目にする。それは次回に触れてみたいと思います。