2011年 生活改善事業の活動履歴


  2011年 11月 「水(みず)」
         7月  伝統溜め池 "Nduwa" 復旧・拡張工事完了間近
         5月  有機農業セミナーを開催
         2月  伝統水路復旧による成果が現れる
        


■「水(みず)」 ('11/11)■



 前回のこの欄で、キリマンジャロ山麓における当会の伝統水路および伝統溜池の復旧支援についてご報告した。キリマンジャロ山では降雨の減少(グラフ1)により、水源の枯渇や流量減など、山麓に暮らすチャガ民族の生活を支えてきた伝統水路も放棄を余儀なくされるなど、人々の生活に影響を与えている。
 そんな折、この夏に開かれたタンザニアの国会で、私たちの主力活動地であるテマ村があるムボコム区(区は村の上位行政区分)における水不足の問題が、スーザン・リモ議員(キリマンジャロ州モシ県選出)によって取り上げられた。そこで行われた議論を以下にみてみたい(リモ議員の質問に対して、水資源省の官僚が答弁を行った)。

 質問に立ったリモ議員は、まず北コリニ村、テマ村の存するムボコム区、およびこれらの村に含まれる各村区(村区は村の下位行政区分)で続く水不足について、政府の対応がまったく進展していないことを指摘した。これらの地域では日常必要とされる水が足りておらず、政府が新たな水源確保の必要性を認識しているのか、またその対応の時期について質した。

 これに対して水資源省側からは、政府が衛生水供給・村環境保全計画委員会を通して、水開発セクタープログラムを全国で展開中であること、2010/2011年度には(ムボコム区のある)モシ県評議会が、12カ村において河川水を引き込む重力流下式水路(=給水パイプライン)スキームの実行のため、22億シリングを予算措置したとの説明がなされた。またそのうち3億2千50万シリングが、実施済の水路建設技術料として当該村に手渡され、次期入札のための書類も水資源大臣に提出されていると説明。加えてこの計画は3プロットで実行中であり、その第一段階がムボコム区の北コリニ村及び南コリニ村であり、同プログラムが完了すれば、ムボコム区を含むモシ県下における水問題は解決する見通しであるとの答弁を行った。

 またモシ県評議会は、これら12カ村での事業継続のため2011/2012年度も、水開発セクターの計画を通して7億470万シリングを独立計上しているほか、同県下ではその他にもキルワ、カヘ地区水供給計画が実行されており、2011年12月に完工の予定であること、2012年4月には3つの拡張計画があると述べ、この計画にはドイツのKFW(ドイツ復興金融公庫)が37億シリングを拠出することで、県評議員会と合意に達していると説明。

 この説明の中で、上記12カ村においては建設に先立ち、住民に対し、地場の技術を使うこと及び建設後の維持管理コスト・利用料を住民自身が負担できるものであることが条件とされ、その結果重力流下式水路が選択されたこと、従って意見表明及び技術選択、水利用において参加型の手法が採られたことが述べられている。また水源に関しては、現在利用可能なのはムルスンガ川であり、その流量は毎秒44リットルであるとした。

 これに対してリモ議員はさらに、この問題は長期にわたって放置され続けており、実際、前水資源省大臣補佐官チザ氏が3年前に現場視察に訪れ、解決にあたることを約束したにも関わらず、今日に至るまで何らの進展も見ていないこと、従って本問題解決の期限を明示すべきことを要求。また(キリマンジャロ山麓に暮らす)チャガ民族の伝統では、牛は放牧ではなく舎飼いが一般的なのであり、水が入手できないことは極めて深刻な問題であること、同様に、山では高齢化が急激に進んでおり、近くで水が確保が出来ない問題はさらに深刻さを増していることを指摘した。また水資源省が水源として説明したムルスンガ川には、今や十分な水量がないと迫った。

 対して水資源省側は、モシ県評議会はすでに説明したように水プログラムを通して計画を実行中であり、現在まで順調に推移していること、第一段階の建設を継続するためのコントラクターの入札も告示されていること、幸いにしてドイツからの支援も得られる見込みであることを重ねて説明し、2015年までには当問題は解決できるものと信じていると答弁している。また他地域においても、資金調達が出来る限りにおいて、継続、拡大していくとした。

 一方、ムルスンガ川の水量については、大雨季には問題ないが、乾季には環境破壊に伴い水量が減り続けていることを認め、リモ氏に対して水源が守られ、年間を通じて十分な水が持続的に得られるよう、環境保全を住民に働きかけて欲しいと依頼した。

 国会でのやり取りは以上のようなものであった。水問題とは直接関係ないが、国会の場で一山村の水問題が真剣に議論されているのがなかなか新鮮である。また官僚の答弁も丁寧かつ具体的、詳細であり、これもまた意外な感じがする。タンザニア国会侮るべからず、であろうか?

 もっともこの件にオチがないわけでもない。実は上記とまったく同じような議論はすでに2008年の国会でもされており(質問者がリモ議員で答弁者が水資源省の官僚という構図も同じ)、その時の答弁でも同じような説明がなされている。つまり国会での説明が丁寧、具体的、詳細であることと、それが実際に現場で実行されているか、或いはその通りに実行されるかは別問題ということになる。このへんはやはりタンザニア、ということだろうか?

 結局残っているのは水不足という現実であり、水源を守り、これ以上の水不足を少しでも防ごうと、一生懸命植林の努力しているのは地域の住民であるという、少々やるせない現地の現実である。給水パイプラインも大事だが、水源が涸れてしまっては元も子もない。森を守ろうという意思を持つ村々や地域住民たちを、森林管理政策の中に積極的に位置づけ、活かしていくことを同時に考えなければ、結局は使えない器だけが空しく残るだけなのではなかろうか。



    
グラフ1:   キリマンジャロ山麓の3地点における降雨推移グラフ。上段がモシ気象局(標高83m)、中段がキレマミッション(同1,430m)、下段がキ ボショミッション(同1,430m)のデータ。キリマンジャロ山全体で、この1世紀の間に約30%雨量が減少したことが、観測結果から報告されている。


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■伝統溜め池 "Nduwa" 復旧・拡張工事完了間近 ('11/7)■


キリマンジャロ山では雨量の減少から、数を減らす一方であった伝統灌漑水路"Mfereji"の重要性が、あらためて見直されている。当会では2009年度から、キリマンジャロ東南山麓、オールドモシ地区のキディア村において、度重なる土砂崩れによって埋もれてしまったキディア伝統水路の復旧に、村と協力して取り組んでいる。すでに本水路の復旧(2.7km)は完了したが、現在、水路の上流に築かれている伝統溜め池"Nduwa"の復旧・拡張工事を行っている。

この伝統溜め池"Nduwa"は、水路の水量確保を目的として、水路の上流及び中流に1〜3カ所築かれていることが多いが、水路の衰退に伴い、維持管理がされなくなり、機能しなくなっているものも多く見られる。

村ではすでに復旧した本水路の水を使って、さっそくこれまで困難だった野菜栽培などが始められている。これまで野菜は、他の村で栽培されたものを買うしかなかったが、自村で栽培された安い野菜が出回るようになってきている。

こうしたことから、村人の水の安定供給に対する思いは強い。現在復旧に取り組んでいる溜め池は、これまで木と土でできていた堰の部分が、大分以前に鉄砲水で押し流されてしまい、破壊の程度が大きかったことから復旧できずにいた。この溜め池は、同時に2本の伝統水路に水を流すことができるようになっていることからも重要性が高く、本水路に引き続きその復旧と、同時に高まる水への需要に応えるため拡張も併せて行うこととした。

池の拡張過程で巨大な石が出てくるなど、予想以上に工事が難航していたが、堰もほぼ完成し、完工まであと僅かとなった。9月からは本格的な大乾期を迎えることになるが、そのときにはこの伝統溜め池"Nduwa"とキディア水路の水が、村人たちの畑を潤すことになるだろう。



   
伝統溜め池の拡張工事に集まってきた村人達    完成間近の堰。幅を広げ、石積み構造に変更



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■有機農業セミナーを開催 ('11/5)■


タンザニアといえばキリマンジャロコーヒーの産地として知られています。ときどき、「栽培している村人たちは、農薬を使っているんですか?」という質問を受けることがありますが、答えは「No」です。だからといって彼らが無農薬栽培にこだわっている訳ではありません。アラビカ種であるキリマンジャロコーヒーは病害虫にとても弱く、良い品質のコーヒーを栽培しようとすれば、農薬は必須とさえいえます。しかし村人たちには高価な農薬を買うお金はなく、結果的に無農薬栽培になっています。したがって当然のこととして、良い品質のコーヒーはほとんど採れず、「AA」などという最高クラスのコーヒーは、ほぼ外国資本による大規模エステートで収穫されたものに限られます。もちろん、そうしたところでは、農薬を使っています。

村人たちにとってこうした状況は、肥料についても言えます。化学肥料などはやはり買えないため、キリマンジャロ山の農民たちについて言えば、飼っている家畜(主に牛)の糞を、樹木の枝葉などと混ぜて畑に入れています。その意味では、彼らの栽培するコーヒーは、立派な有機無農薬栽培コーヒーだと言えます(品質に目をつぶればですが・・・)。
  
そこでポレポレクラブでは、病害虫に強い品種のキリマンジャロコーヒーを村に普及する取り組みを行っていますが、このたびカウンターパートのTEACAは、タンザニアの農業大学ソコイネ大学から、土壌学の専門家キマロ教授を招き、農家を対象とした有機堆肥作りとアグロフォレストリーのセミナーを実施しました。


   
熱心に講義に耳を傾ける村人たち           実際に発酵堆肥を作ってみる


セミナーでは有機農業についてその仕組みと方法をプロジェクターを使って説明し、その後フィールドに出て土、作物残滓(モロコシの茎)、葉っぱ、牛糞を交互に積み重ねて作る発酵堆肥作りについて、実習を行いました。またフィールでは、コーヒー農家を対象に、コーヒーと樹木の適正配置やマルチング(根覆い)による肥料効果保持と水分保持の大切さも教え、これに従った植え付け実習を行いました。

さらに不耕起による野菜栽培についても紹介がされましたが、これについてはデモプロットで実験的に試みてみて、実際に効果がありそうか様子を見てみることにしています。



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■伝統水路復旧による成果が現れる ('11/2)■


キリマンジャロ山麓オールドモシ区キディア村(図1)で復旧に取り組んだ伝統水路による効果が、早くも現れている。キディア村では従来、村人が自分たちの家のそばに持っている自家菜園"Kihamba"で栽培している、キリマンジャロコーヒーへの灌漑のために伝統水路の水を使っていた。

キディア村の位置
図1 キディア村の位置

しかし雨量の減少に引き続く水量の低下、給水パイプラインの敷設、さらにはコーヒー価格の低迷から多くの村人たちがコーヒー栽培を放棄し、伝統水路への依存度合いが減じていった。それとともに水路のメンテナンスもされなくなった。伝統水路はキリマンジャロ山の急な斜面を等高線に沿うように作られているが、森林を失った山の斜面では土砂崩れが頻発し、やがて水路のかなりの部分が埋もれ、ついには水路そのものが放棄されるに至った。

キディア村尾根の一部
伝統水路を復旧させたキディア村尾根の一部

一方、キディア村と深い谷を挟んで対置するテマ村では、コーヒー栽培に見切りをつけた村人たちが、比較的早い時期から栽培作物の多様化を図り、コーヒー畑跡地等での野菜栽培への切り替えを行っていた。野菜栽培のためにはコーヒー栽培以上に頻度の高い灌水が要求され、従って伝統水路も一部には放棄されたものもあるが、今でも村人たちによってメンテナンスが継続されている。また水源保護のための植林にいち早く立ち上がっていたのも彼らである。

こうした結果、キディア村では調達野菜の多くを、テマ村に頼らざるを得なくなっていた。キディア村では週2回、青空マーケットが開かれるが、そこでの野菜販売は、まさにテマ村の女性たちの独占といって良い状態であった。

ところが伝統水路の復旧によって、キディア村での野菜栽培が可能となり、水路付近の村人たちが一斉に野菜栽培を始めたのである。テマ村から谷越えをして売られていた野菜は、1束の値段が200シリングであったが、それが今ではキディア村産の野菜で、1束50シリングで手に入るようになったのだ。キディア村の村人たちはもちろん喜んでいるが、逆にテマ村の村人たちは、良いマーケットを失うことにもなった。テマ村の村人から冗談で、「オマエ、ママたちからうらまれてるゾ〜!(笑)」と言われてしまった。

ただこれで万事良しかといえば、残念ながらそうはならない。先にも触れたように、コンクリの三面張りではない伝統水路は、泥さらいは当然のことながら、崩れた場所の補修や水草の刈り払いなど、毎年数回のメンテナンスが必須とされる。伝統水路の「伝統」たる所以は、キリマンジャロ山麓に住むチャガ民族の中で、水路の所有、管理、運用から規範、タブーにいたるまで、彼らの社会文化的制度ともいえるほど強固な仕組みが、歴史的に確立されていたことにある。しかし上記のような諸々の要因による伝統水路離れは、彼ら民族の根幹をも成していた、こうした社会文化的仕組みを徐々に蝕み、弱体化させる結果となった。

私たちは伝統水路の復旧にあたって、利用者からなる管理グループの再構築を行っている。しかしそれが本当にかつてのように長く持続的なものとして機能してくれるか、それはまだ分からない。今後も継続的なモニタリングを続け、必要な工夫や改善を村人たちとともに行っていくつもりである。またそうしなければ、水路の復旧はたんに一時的なもので終わり、やがてはまた埋もれてしまうだけなのである。




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