『 Habari gani?』 第72号 より抜粋 (2015/6)

〜チャガ民族こぼれ話〜 ご先祖様が遣わせた軍隊アリ

キリマンジャロ山の村や森林帯の小道を歩いていると、よく焦げ茶色をした小さなアリがそれこそウジャウジャと列をなして行軍しているのを見かけます。このアリはスワヒリ語で"Siafu"と呼ばれる、いわゆる軍隊アリの一種で、英語ではSafari antsといいます。英名にあるsafariも元々はスワヒリ語で、「旅行」とか「移動」といった意味なのですが、この"Siafu"、文字通り放浪性のアリで、特定の巣を持ちません。ひたすら移動し、その途上で獲物を襲い、何処かへと去っていきます。とても凶暴で、家畜にさえ大集団で襲いかかることもあるとか。しかもその数たるや数百万から最大のものでは2千万匹にもなるといいます。森の茂みの中を歩いていて気づかずにうっかりこの行軍の上に足でもおろそうものならさあ大変!私も何度かその憂き目に遭いましたが、あっという間に集団で足を這い上がってきて、ところ構わず噛みつかれます。とても大きなアゴを持っており、噛まれたら「痛ってぇぇぇl」と叫ぶだけでなく、血が出ることも。おまけに噛みついたら最後、死んでも放してくれません。これは冗談なのではなく、本当に死んでも放しません。どこの国だったか忘れましたが、この習性を利用して、裂傷にそって何匹にも噛みつかせ、噛みついた頭部だけをちぎって残して傷の縫合代わりに使ったといいますから、その強者っぷりの想像もつこうというもの。

さて、その恐るべき"Siafu"ですが、思わぬところで登場します。それは、タンザニア・ポレポレクラブがキリマンジャロ山のテマ村、キディア村、モウォ村の3村(その後、人口増でモウォ村が2つに分割され、現在は新村であるリャコンビラ村を加えた4村)と一緒に取り組んでいる「自慢の森」の取り組み(Rafikiプロジェクト)で実施した「森の自慢調査」に彼らが登場するのです。しかもただ登場するだけではありません。何と森自慢の「生き物部門」で堂々の3位に登場してきます。「自分たちの森の自慢がアリ??」、「しかも何で凶暴なSiafu??」と不思議な気もしますよね。

しかしこれにはちゃんと理由があります。"Siafu"はキリマンジャロ山に暮らすチャガ民族の精神世界、信仰やそして儀礼と深く結びついているからです。チャガ民族は数百年前の昔から、彼らの農業を支える知恵として"Mfereji"と呼ばれる伝統水路をキリマンジャロ山に網の目のように張り巡らせてきました。その総延長は幹線水路だけで約1,800kmにもなると言われ、これは東京−沖縄間(約1,700km)を上回るものです。そして灌漑水量の年間約2億トンは、何とあの黒部ダムの貯水量と同じになります。彼らは森にある水源からそうした水路を、当初は氏族ごとに分かれて暮らしていたそれぞれの尾根に数キロメートルも引っ張ってきたのです。しかし森は地形が複雑に入り組んでおり、少し歩いただけでもすぐに方向感覚が失われてしまうほどで、そんな森の中を、いったい彼らはどうやって水源から村まで水路を引いてきたのでしょうか?

そこに登場するのが"Siafu"です。チャガ民族は今でこそ殆どがクリスチャンですが、彼らの元々の信仰は、連綿と続く氏族の先祖との繋がりを極めて重視する祖霊信仰で、その中で"Siafu"はご先祖様が水路建設のために遣わせた使いであると信じられているのです。たとえばテマ村にあるマエダ水路("マエダ"はテマ村のあるムボコム地区に古くから暮らしている氏族の1つ)の水路長であるジャクソン・マエダさんは、「水路のルートは自分たちで決めるのだが、建設の途中で水が上手く流れないような場合"tambiko"(儀式)を行った。すると氏族の老人たちのもとに先祖がアリを遣わせ、そのアリたちが列を作って正しいルートを教えてくれた。」と言います。チャガ民族の伝統水路に関する研究論文の中にも、しばしばこうした言い伝えが登場します。たとえば「キリマンジャロ山におけるチャガ民族の伝統灌漑システム」の著者エドワード・スミス氏は同論文の中で、「(水路建設の際)祈祷師が先祖の魂を鎮めるために伝統酒、山羊、羊などを奉納する。先祖の魂が鎮められると、水路を所有する氏族の長もしくは水路を建設する者の家から水路を引く川に向かって膨大な数の赤アリが列をなして行進する様子を、氏族の特定のメンバーがお告げとして得る」、「氏族の亡くなったメンバーは、赤アリを遣わすことで水路のコースを定める力を持っており、そのため測量は不要であった」と記述しています。

また"Siafu"は雨をもたらすと信じられています。先に触れた「森の自慢調査」でも、多くの村人たちが自慢にあげた理由として「彼らは雨のお告げだから」と書いています。確かに現地での経験から"Siafu"の行軍を見かけた時にはその後に雨が降ることが多いように思え、たんなる言い伝えと切り捨てられないような気がしています。もしかして本当にご先祖様の使いなのかも!?もっとも科学的な説明が出来なくもありません。軍隊アリは目が退化していてほとんど何も見ることが出来ないと言われています。その彼らがなぜ一糸乱れぬ行軍が可能なのか?それは先に行く者のフェロモンに導かれているからのようなのですが、このフェロモンは日差しで蒸発してしまうらしく、従って日中は行軍が困難となります。ですので彼らの行軍は朝方か日没後が多いのです。しかし雨が近づき日が遮られてくると、フェロモンの蒸発が抑えられて日中でも行軍が可能になるため、その分、人目に触れる機会が多くなるからではないかと勝手に想像しています。

また村人たちが自慢とする理由を見ていると、チャガの人々が"Siafu"の一致団結した行動(行軍)を、社会や氏族の団結やお互いの協力の大切さや勤勉さを表す象徴としてとらえてきた様子も窺えます。

このようにちょっと(大分?)凶暴な"Siafu"ではありますが、かつて彼らを先導役として、チャガの人々は伝統水路を作っていったんだなと考えると、多少ロマンチックな目線で彼らを見つめることもできます。

みなさんもキリマンジャロ山を訪れる機会がありましたら、美しい山の姿に加えて、ぜひ足下も良くご覧になって歩かれてください。チャガ民族のご先祖様のお使いに出会えるかも知れませんよ(そしてもちろん、踏んづけないためにも!)。




行軍中のSiafuの拡大写真



(藤沢)




  〔No.72 その他の内容〕

 ● Rafikiプロジェクト エデンの森エンブレム作成進捗状況
 ● モザンビークの幼稚園事情
 ● ナティロ中学校環境クラブ活動報告 テラ小学校でのカルタ指導
 ● 森の本とカルタで知る、村と森の自慢 〜Utupa & Ihahana〜
 ● インターンのここが知りたい! 〜養蜂編 第十回〜
 ● ポレポレ伝言板


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