ミニニュースレター62号抜粋記事
『 Habari gani?』 第62号 より抜粋 (2013/7)

マサイ〜観光人類学から考える〜(2)

 観光がもたらしたマサイへの文化的悪影響として、地域住民のプライベート空間への観光客の侵入(invasion of the backspace)が指摘されています。マサイの伝統では、出産の際、家畜の血とハーブとを混ぜて作るスープを母親が飲むそうです。しかしながら、観光客の出入りによって、こういった儀式を行うスペースが確保できず、伝統に則った出産が行われないケースが報告されています。従って、これは、結果的に観光が伝統の簡略化を引き起こした例と言うことができるのかもしれません。

 イギリスの観光学者バーンズは、観光による文化変容を、「強い文化が弱い文化(注1)を、何か下位のイメージのものに変えていく」こと、としています。その点から考えると、マサイは観光によって文化変容を強いられているということになるのでしょう。また、観光人類学の観点から見ると、マサイは観光の被害者とみなされる傾向が強いように思われます。しかしながら、この議論は、当事者であるマサイの意向を無視しているように思えてなりません。

 アメリカの人類学者ナッシュは、観光人類学は帝国主義的視点に陥り易い傾向にあると指摘した上で、「現地住民は常に従属的である訳ではない」と述べています。つまり、別の視点から見ることで、マサイの文化変容は、発展の為の彼らの選択の結果としてみなすことができるのかもしれません。実際に、マサイの村で販売されている槍や楯、アクセサリー等の民芸品、あるいは伝統舞踊等は観光客用に修正が加えられているそうですが、それらの制作や創造、観光客への披露を通して、マサイの自尊心の向上、コミュニティ内での文化の共有、文化の復活が遂げられているとする研究者もいます。従って、当事者であるマサイの意思を尊重するという立場に立てば、マサイは観光を受け入れつつ、自らの発展の為に、積極的に文化を変容させてきた、と言うことができるのかもしれません。


 
 



 いずれにせよ、タンザニアでマサイが置かれている状況は、必ずしも良いものとは言えないと思います。ダルエスサラームで暮らしていると、民族衣装を脱ぎ、洋服を着ているマサイと出会う機会もありますが、自分がマサイだと名乗った瞬間に、周囲のタンザニア人から笑われるという光景を目にしたことがあります。また、マサイは警備員としてホテルやレストランで働いているケースが多いのですが、とあるホテルのオーナーは、マサイを雇う理由として、マサイが「戦闘に長けた、野蛮な、異種の人間」として一般のタンザニア人から認識されているようなので、彼らの恐怖心を煽りホテルへ近寄り辛くすることができる、と述べています。

 マサイ観光はマサイと観光客との交流の上に成り立っています。観光を上手に使うことで、自分たちの現実の姿を世界中に発信することができるのではないでしょうか。そうすることで、マサイが経済的・文化的発展や自尊心の向上のみならず、自分たちの正当な評価を勝ち取ることができたら、と思います。これからも温かい視線をもって、マサイ観光を応援していきたいです。

注1:強い文化、弱い文化は文化間の力関係を示すものであって、その優劣を意味するものではありません。

(文責:元事務局アルバイト 石原)




  〔No.62 その他の内容〕

     ● タンザニアのあれこれ            : タンザニアの高校事情
     ● 手工芸品プロジェクト             : エコライフ・フェア2013とリサイクル
     ● ポレポレ菜園活動              : さらなる進化を求めて!
     ● インターンの「ここが知りたい!」      : 〜養蜂編 第一回〜
     ● テマ村カルタで知る、村と森の自慢    : 〜Kapilia〜
     ● ポレポレ伝言板


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